とりあえず、背筋をピンと伸ばしてみるんだ
とりあえず、前だけ見つめて歩いてみるんだ
とりあえず、挨拶だけでも交わしてみるんだ
とりあえず、相手の目を見て話してみるんだ
とりあえず、肩の力をスッと抜いてみるんだ
とりあえず、深呼吸を何度かやってみるんだ
とりあえず、鏡の中に笑顔を写してみるんだ
とりあえず、できると心に宣言してみるんだ
とりあえず、無心を心がけてやってみるんだ
とりあえず、ノートに願いを書いてみるんだ
とりあえず、明るい未来像を描いてみるんだ
とりあえず、なりたい自分を演じてみるんだ
とりあえず、ありがとうを口にしてみるんだ
とりあえず、全てに大丈夫と思ってみるんだ
とりあえず、今日は一歩だけ進んでみるんだ
2024年09月
夜空のメッセージ
「あの日の飲み会の後、ぼくはタクシーを使わずに歩いて帰ったんだ」
「午前2時を過ぎてたじゃない。本当に歩いて帰ったの?」
「うん。酔い覚ましにちょうどいいやと思ってね」
「確かに、かなり飲んでたからね」
「そこで貴重な体験をしたんだ」
「どんな?」
「ほらあの道、途中に三叉路があるだろ」
「うん」
「普段は三叉路を真っ直ぐ行くんだけど、なぜかあの晩は左側の駅方面に行きたくなったんだ。それで左に曲がったんだけど、二十メートルほど歩いた所だったな」
「どうしたの?」
「現れたんだよ」
「何が?霊でも出たの?」
「霊じゃない、メッセージだ」
「なんだ、メッセージか」
「西の空に一つだけ輝く星があったんだけど、突然その星の右上にペンのようなものが現れて、そこにサラサラとメッセージが書かれていくんだ。古い映画の終わりのようにね」
「メッセージ?何て書いてあったの?」
「英語だったしね。しかも筆記体だったから、『Dear my』以外わからなかったよ」
「夜空にメッセージかぁ。ロマンチックな話ね」
「ロマンチック・・。ちょっと怖かったんだけどね」
「午前2時を過ぎてたじゃない。本当に歩いて帰ったの?」
「うん。酔い覚ましにちょうどいいやと思ってね」
「確かに、かなり飲んでたからね」
「そこで貴重な体験をしたんだ」
「どんな?」
「ほらあの道、途中に三叉路があるだろ」
「うん」
「普段は三叉路を真っ直ぐ行くんだけど、なぜかあの晩は左側の駅方面に行きたくなったんだ。それで左に曲がったんだけど、二十メートルほど歩いた所だったな」
「どうしたの?」
「現れたんだよ」
「何が?霊でも出たの?」
「霊じゃない、メッセージだ」
「なんだ、メッセージか」
「西の空に一つだけ輝く星があったんだけど、突然その星の右上にペンのようなものが現れて、そこにサラサラとメッセージが書かれていくんだ。古い映画の終わりのようにね」
「メッセージ?何て書いてあったの?」
「英語だったしね。しかも筆記体だったから、『Dear my』以外わからなかったよ」
「夜空にメッセージかぁ。ロマンチックな話ね」
「ロマンチック・・。ちょっと怖かったんだけどね」
【詩】学園通り
1,
その高校は市の中央にそびえる
山の中腹に建っている。バスを
麓で降りて、そこからは歩いて
狭く長い坂道を登ることになる。
春や秋は様々な花が咲いていて
長い坂を忘れさせてくれるけど
夏や冬はその坂道が地獄と化す。
夏は所々の急な勾配と陽射しで
朝から汗まみれになってしまう。
冬はさらに酷くて、雪が降ると
坂は凍結してしまい、ちょっと
バランスを崩すと転んでしまう。
だからだろうか、女子の制服の
スカートは他校よりも少し長い。
2,
通りは朝方と夕方は生徒たちの
行き帰りで賑わっているものの
それ以外の時間帯は付近に住む
お年寄りが歩いているくらいで
人を見かけることはあまりない。
だから学校を抜出ても住民から
通報されることはほとんどない。
ただお年寄りも男女交際だけは
敏感で、おたくの生徒が通りで
いちゃいちゃしてましたぞとか、
バス停でキスしてましたぞとか
通報してはことを荒立てている。
3,
その坂道の一つ向うの通りには
江戸期の有名な上人が建てたと
言われている寺が存在している。
そのため通りは門前町風造りで
山門前まで商店が連なっている。
その近くにあられ工場があって
終日その香りが街を覆っている。
その香りに包まれて生徒たちは
急な坂をダラダラと登っていき、
その香りに包まれて生徒たちは
坂をいちゃいちゃと下っていく。
その高校は市の中央にそびえる
山の中腹に建っている。バスを
麓で降りて、そこからは歩いて
狭く長い坂道を登ることになる。
春や秋は様々な花が咲いていて
長い坂を忘れさせてくれるけど
夏や冬はその坂道が地獄と化す。
夏は所々の急な勾配と陽射しで
朝から汗まみれになってしまう。
冬はさらに酷くて、雪が降ると
坂は凍結してしまい、ちょっと
バランスを崩すと転んでしまう。
だからだろうか、女子の制服の
スカートは他校よりも少し長い。
2,
通りは朝方と夕方は生徒たちの
行き帰りで賑わっているものの
それ以外の時間帯は付近に住む
お年寄りが歩いているくらいで
人を見かけることはあまりない。
だから学校を抜出ても住民から
通報されることはほとんどない。
ただお年寄りも男女交際だけは
敏感で、おたくの生徒が通りで
いちゃいちゃしてましたぞとか、
バス停でキスしてましたぞとか
通報してはことを荒立てている。
3,
その坂道の一つ向うの通りには
江戸期の有名な上人が建てたと
言われている寺が存在している。
そのため通りは門前町風造りで
山門前まで商店が連なっている。
その近くにあられ工場があって
終日その香りが街を覆っている。
その香りに包まれて生徒たちは
急な坂をダラダラと登っていき、
その香りに包まれて生徒たちは
坂をいちゃいちゃと下っていく。
万引き夫婦(後編)
数分後、中年の刑事がぼくのところにやってきた。
「無事逮捕しました」と刑事は言った。
「ありがとうございました」
「ところで、事情聴取をしたいので、今からいっしょに来てくれませんか」
「パトカーに乗ってですか?」
「そういうことになりますなあ」
「今、人がいないので、後からではいけませんか」
「今のほうが都合がいいんだけど。・・じゃあ、1時間以内に来て下さい」
ということで、30分後、ぼくは本署に行った。
本署に着くと、ぼくは防犯課に案内された。課内にはたくさんの刑事がいた。
「○○さん、防弾チョッキ余ってなかったですか」などと言い合っている。テレビで見たことがある光景が、そこにあった。
ぼくがイスに座って待っていると、ぼくの前を例の万引き夫婦の夫のほうが連れられて行った。
取調室から声が聞こえてくる。
「Hよ、今度は逃れられんぞ。2,3年は臭い飯を食ってもらわんとのう」
「・・・」
「今日の朝からの行動を言うてみい」
「・・・」
夫の声は小さく、よく聞き取れない。
「『行くぞ』と言うて、家を出たんか」
「・・・」
「それが『万引きしに行く』の合言葉か」
「・・・」
ぼくは笑いそうになった。いくらなんでも、『行くぞ』が『万引きしに行く』の合言葉だとは思えない。
「これはただ単に『行くぞ』だったに違いない」と思っていた。
しかし、いつ来ても、警察の事情聴取というのは面倒臭いものだ。
夫はCDを14枚盗っていたのだが、そのアルバムのタイトルとアーティストを全部言わなければならない。そして、自分の立っていた位置や、相手が盗った時の状況を説明しなければならない。
1時間近くかかって出来上がった調書は、充分に笑えるものだった。ところどころに「刑事さん」という言葉が出てくる。
「スーパー○○、××店の電気売場は、再三彼らに被害にあっていた。
そこの担当であるところの、私しんたは『刑事さん』に相談した。
その翌日、開店と同時に彼らが来たので、さっそく『刑事さん』に連絡した。
『刑事さん』はすぐにやってきてくれた。
・・・
再び犯人たちがやってきた。
私しんたは、レジの隅にいたが、犯人たちは私のことに気づかなかったようだ。
私の後ろには『刑事さん』が3人いて、犯人を見張っていてくれた。、
犯人たちは、コンパクトディスクを懐に入れ逃げて行った。
『刑事さん』は、すぐさま犯人たちを追いかけて行った。
そして3分後、刑事さんは、犯人たちを逮捕してくれた。
被害にあったのはコンパクトディスクで、内訳は・・・(14枚のアルバムタイトルとアーティスト名)である。
・・・・・
右、相違ありません。
MS 押印」
おおむねこんなところだった。
こちらが刑事の質問に対して答えていき、文章を書くのはその『刑事さん』だった。できばえは、小学生の作文並みである。
それにしても、調書の中の『刑事さん』たちは大活躍である。ぼくの扱いは、あくまでも一市民にすぎない。これがドラマなら、ぼくは「その他の出演者」のところに名を連ねるだろう。
万引きを捕まえるのはいいけど、その後の事情聴取が疲れるんですよ。商品がわかりやすいものならいいけど、その商品の周辺機器ともなると大変である。まず、この商品がどんなもので、どういう時に使うのかを詳しく説明しなくてはならない。
前に楽器を売っていた頃、シンセサイザーの周辺機器シーケンサーを盗られたことがあるのだが、説明に小一時間を要したことがある。結局いくら説明してもわからなかったようだった。
結局、調書には「幅30センチ、縦25センチの楽器の録音機」と書いてあった。
とにかく、「たかが万引き」のために、店の人間はこれだけ苦労するのだ。物を取られるのも、人を捕まえるのも、あまり気分のいいものではない。そのために一生を台無しにする人だっているのだ。万引きなんかやめてほしいものである。 (2002年8月20日)
「無事逮捕しました」と刑事は言った。
「ありがとうございました」
「ところで、事情聴取をしたいので、今からいっしょに来てくれませんか」
「パトカーに乗ってですか?」
「そういうことになりますなあ」
「今、人がいないので、後からではいけませんか」
「今のほうが都合がいいんだけど。・・じゃあ、1時間以内に来て下さい」
ということで、30分後、ぼくは本署に行った。
本署に着くと、ぼくは防犯課に案内された。課内にはたくさんの刑事がいた。
「○○さん、防弾チョッキ余ってなかったですか」などと言い合っている。テレビで見たことがある光景が、そこにあった。
ぼくがイスに座って待っていると、ぼくの前を例の万引き夫婦の夫のほうが連れられて行った。
取調室から声が聞こえてくる。
「Hよ、今度は逃れられんぞ。2,3年は臭い飯を食ってもらわんとのう」
「・・・」
「今日の朝からの行動を言うてみい」
「・・・」
夫の声は小さく、よく聞き取れない。
「『行くぞ』と言うて、家を出たんか」
「・・・」
「それが『万引きしに行く』の合言葉か」
「・・・」
ぼくは笑いそうになった。いくらなんでも、『行くぞ』が『万引きしに行く』の合言葉だとは思えない。
「これはただ単に『行くぞ』だったに違いない」と思っていた。
しかし、いつ来ても、警察の事情聴取というのは面倒臭いものだ。
夫はCDを14枚盗っていたのだが、そのアルバムのタイトルとアーティストを全部言わなければならない。そして、自分の立っていた位置や、相手が盗った時の状況を説明しなければならない。
1時間近くかかって出来上がった調書は、充分に笑えるものだった。ところどころに「刑事さん」という言葉が出てくる。
「スーパー○○、××店の電気売場は、再三彼らに被害にあっていた。
そこの担当であるところの、私しんたは『刑事さん』に相談した。
その翌日、開店と同時に彼らが来たので、さっそく『刑事さん』に連絡した。
『刑事さん』はすぐにやってきてくれた。
・・・
再び犯人たちがやってきた。
私しんたは、レジの隅にいたが、犯人たちは私のことに気づかなかったようだ。
私の後ろには『刑事さん』が3人いて、犯人を見張っていてくれた。、
犯人たちは、コンパクトディスクを懐に入れ逃げて行った。
『刑事さん』は、すぐさま犯人たちを追いかけて行った。
そして3分後、刑事さんは、犯人たちを逮捕してくれた。
被害にあったのはコンパクトディスクで、内訳は・・・(14枚のアルバムタイトルとアーティスト名)である。
・・・・・
右、相違ありません。
MS 押印」
おおむねこんなところだった。
こちらが刑事の質問に対して答えていき、文章を書くのはその『刑事さん』だった。できばえは、小学生の作文並みである。
それにしても、調書の中の『刑事さん』たちは大活躍である。ぼくの扱いは、あくまでも一市民にすぎない。これがドラマなら、ぼくは「その他の出演者」のところに名を連ねるだろう。
万引きを捕まえるのはいいけど、その後の事情聴取が疲れるんですよ。商品がわかりやすいものならいいけど、その商品の周辺機器ともなると大変である。まず、この商品がどんなもので、どういう時に使うのかを詳しく説明しなくてはならない。
前に楽器を売っていた頃、シンセサイザーの周辺機器シーケンサーを盗られたことがあるのだが、説明に小一時間を要したことがある。結局いくら説明してもわからなかったようだった。
結局、調書には「幅30センチ、縦25センチの楽器の録音機」と書いてあった。
とにかく、「たかが万引き」のために、店の人間はこれだけ苦労するのだ。物を取られるのも、人を捕まえるのも、あまり気分のいいものではない。そのために一生を台無しにする人だっているのだ。万引きなんかやめてほしいものである。 (2002年8月20日)
【詩】小粋な地蔵
道の傍らになぜか化粧をした
お地蔵さまがまつられている。
まつられているとは言っても
別にお堂があるわけではなく
いつも雨ざらしになっている。
それでも綺麗な顔でいるのは
心ある人たちがお地蔵さまの
お世話を毎日しているからで
お化粧顔は絶えたことがない。
お地蔵さまがまつられている。
まつられているとは言っても
別にお堂があるわけではなく
いつも雨ざらしになっている。
それでも綺麗な顔でいるのは
心ある人たちがお地蔵さまの
お世話を毎日しているからで
お化粧顔は絶えたことがない。
この化粧顔のお地蔵さまには
むかしからの言い伝えがある。
月をまたがぬ三七二十一日間
寅の刻にお地蔵さまの御前で
「おん、かーかーかびさんま
えい、そわか」という真言を
一心不乱にとなえると恋愛が
成就するというもので、その
お礼の印が化粧なのだと言う。