1978年4月の上旬のことだった。
キャンディーズの解散コンサートを
テレビでしっかり目に焼付けてから
桜前線を追うようにぼくは上京した。
東京で新幹線から中央線に乗り換え
降りた駅が当時国電の新宿駅だった。
この街がぼくの東京デビューとなる。
一度も来たことのない街だったのに
まったく違和感を感じなかったのは
東京での生活の中心がこの街になる
という潜在的な予感があったのかも。
『迷い道』や『悲しき願い』が流れ
歌に乗りキャッチセールスが現れた。
そのしつこいセールスたちをかわし
地下道に降りてぼくは丸井に入った。
地下の入口は女性の下着売場だった。
ぼくは生まれて初めてボディスーツ
という水着みたいなものを目にした。
ファッションにまったく疎いぼくは
「東京の女性の間ではこんなものが
流行っているのか」とその窮屈げな
水着みたいなお召し物を眺めていた。
その日は晴れ上がった日曜日だった。
新宿の街には多くの人が歩いていた。
そこですれ違う女性の姿を見ながら
「なるほど窮屈そうに歩いているな」
心の中でぼくはニヤリと笑っていた。