カテゴリ: 季節

大山椒魚のような形をした
真っ黒で巨大な雲がゆっくりと
ゆっくりと東に向かっている。
ああ、こりゃまた雨が降るな。
ぼくは心の中のスクリーンに
すでに雨を降らせている。
と思う間もなく車の窓に
一個二個三個、大粒の雨が
ぶち当たる。ぶち当たる。
四個五個六個、そして無数
何度も何度もぶち当たる。
雨は窓に当たって砕け
バチバチという雨音に乗って
車体は左右に揺れている。



また雨だ
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雲を脱ぎ捨てた太陽が
体を焦がしにくるので
今日の夏は疲れます。

不快指数を上げる風が
肌にまとわりつくので
今日の夏は疲れます。

頭から流れる汗の粒が
角膜を覆って痛いので
今日の夏は疲れます。

街に漂う焼肉の臭いが
鼻の中にはびこるので
今日の夏は疲れます。

昼夜途絶えぬ蝉の声が
耳の中で鳴り響くので
今日の夏は疲れます。

冷房風が体にぶつかり
首の凝りをさそうので
今日の夏は疲れます。

兎にも角にも夏全体が
暑くまとわりつくので
今日の夏は疲れます。


夏.png

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通り雨、犬といっしょに
夏、背中を濡らし
大きな雲が頭の上を
黒く塗りつぶす

息を詰まらす
俄かな夜の中を
走ってきた雲が光を放ち
大地を震わす

 ついさっきまでの太陽の中
 ぼくは影を落とし
 座り込んでの手探りの中
 もう戻ってはこない

通り雨、ぼくと似た人が
黒い喪服を濡らし
降り続く雨はまた轟々と
影を塗りつぶす

      (1976年8月作)


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梅雨明けと前後して
それまで沈黙を守っていた
公園のクマゼミたちが
申し合わせたように
一斉にワシワシを始める。

立秋と前後して
それまで沈黙を守っていた
ツクツクボウシが
申し合わせたように
一斉に物語を始める。

お盆と前後して
それまで沈黙を守っていた
道ばたの虫たちが
申し合わせたように
一斉に鬼太郎を讃え始める。

お盆が過ぎてから
それまで沈黙を守っていた
中年以上の人たちが
申し合わせたように
体調不良を訴え始める。

夏休みが終わる頃
それまで外で騒いでいた
近所の子どもたちが
申し合わせたように
一斉に勉強部屋に隔離される。


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暗い地中で何年も暮らし
明るい地表に出てみたら
この世は夏のまっただ中
暑さのかたまりで一杯だ
ワシワシワシアチチチチ

空を飛んだり小便したり
この世の夏を駆け抜ける
異性の快楽におぼれたり
小鳥の襲撃におびえたり
ワシワシワシアチチチチ

人生の最期が青春という
稀有な人生を送った彼は
この世は暑いところだと
鳴いて今世を去って行く
ワシワシワシアチチチチ
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