カテゴリ: 季節


通り雨、犬といっしょに
夏、背中を濡らし
大きな雲が頭の上を
黒く塗りつぶす

息を詰まらす
俄かな夜の中を
走ってきた雲が光を放ち
大地を震わす

 ついさっきまでの太陽の中
 ぼくは影を落とし
 座り込んでの手探りの中
 もう戻ってはこない

通り雨、ぼくと似た人が
黒い喪服を濡らし
降り続く雨はまた轟々と
影を塗りつぶす

      (1976年8月作)


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梅雨明けと前後して
それまで沈黙を守っていた
公園のクマゼミたちが
申し合わせたように
一斉にワシワシを始める。

立秋と前後して
それまで沈黙を守っていた
ツクツクボウシが
申し合わせたように
一斉に物語を始める。

お盆と前後して
それまで沈黙を守っていた
道ばたの虫たちが
申し合わせたように
一斉に鬼太郎を讃え始める。

お盆が過ぎてから
それまで沈黙を守っていた
中年以上の人たちが
申し合わせたように
体調不良を訴え始める。

夏休みが終わる頃
それまで外で騒いでいた
近所の子どもたちが
申し合わせたように
一斉に勉強部屋に隔離される。


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暗い地中で何年も暮らし
明るい地表に出てみたら
この世は夏のまっただ中
暑さのかたまりで一杯だ
ワシワシワシアチチチチ

空を飛んだり小便したり
この世の夏を駆け抜ける
異性の快楽におぼれたり
小鳥の襲撃におびえたり
ワシワシワシアチチチチ

人生の最期が青春という
稀有な人生を送った彼は
この世は暑いところだと
鳴いて今世を去って行く
ワシワシワシアチチチチ
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農家の人たちが寝静まった頃
お地蔵さんたちがやってきて
緑色の大きな玉や小さな玉に
せっせと黒い線を書いていく
「この玉の中は赤いんだって
「甘い汁が詰まっているって
「そろそろ腹も減ってきたな
「一つ割って食べてみようか
「よせよせ修行中なんだから
せっせと黒い線を書いていく
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夏至の日は晴れてないとありがたみがない。
一番長い陽の光を拝めないのが口惜しくて。
雨が夜を急かすので日没すらもわからない。

七夕の夜は晴れてないとありがたみがない。
幼いころからの夢を雨はいつも流してまう。
織姫と彦星の恋を一度も味わえないでいる。


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