ぼくの通った中学校は、火葬場の前にあった。
夏場は窓を全開にしていたため、授業中によく煙がに入ってきた。
いつものことなので、ぼく達は何も感じなかったが、転任してきた先生などは「おお、いい匂いがしよるのう」などと言って気味の悪さをごまかしていた。
たしかに火葬場の煙というのはいい匂いがする。
魚を焼く匂いだ。
とくに昼飯前だと腹にこたえた。
しかし、弁当に焼き魚が入っていると、食べる気はしなかった。
中学3年の時だったか、学校に時計台が出来た。
旺文社の“中三時代”にそのことを書いて投稿したバカがいた。
「ぼくたちの学校に時計台が出来たんだ。これで遅刻者がぐっと減ったんだぜ」などと書いていた。
いるんですねえ、こういう嘘ばかり書いて、本に載せてもらおうという変わり者が。
家から時計台が見えるのなら遅刻も減るだろうが、校門の前まで来てはじめて時計台が見えるのである。
そこで時間を確認しても、間に合わない奴は間に合わない。
ぼくは、時計台が出来てから毎日遅刻をしていた。
ぼくが遅刻をしていたのには理由があった。
毎日“ピンポンパン”を見てから学校に行っていたからである。
当時“ピンポンパン体操”が流行っていたが、ぼくがハマっていたのは、その後のことだ。
お姉さんの酒井ゆきえが好きだったのである。
それにしても、酒井ゆきえは歳をとらない。
この間、久しぶりにテレビに出ているのを見たが、あの頃と全然変わってない。
もう40代後半のはずだが。
まだ気持ちはお姉さんなのだろうか?
中学校の近くに小高い丘があった。
そこに赤い小さな鳥居があった。そこから階段が続いていた。
ぼくは、その前を通るたびに、いつも不思議に思っていたことがある。
毎日そこを通っていたのだが、お参りする人を一度も見たことがないのだ。
友達に聞いても誰も見たことがないと言う。
そのくせ、夜になるといつも灯りがついていた。
ある日、新聞配達をしている友達が、「朝5時ごろ、あの前を通ったら行列が出来とった。みんなうつむいとるんよ。怖かった」と言っていた。
「どういう人がお参りしよるんか?」と聞いたら、「どうも孤狗狸さんにとり憑かれた人らしい」と言った。
「気味が悪いのう」とみんな言っていたが、ぼくは『そうか、孤狗狸さんにとり憑かれたら、あそこに行けばいいんか』などと一人で肯いていた。
あれから30年ほど経つが、まだ孤狗狸さんにはとり憑かれてない。
小学校の時から成績がトップで、いつも一学期の級長をやっていた奴がいた。
中学3年の時、その秀才と同じクラスになった。
修学旅行で風呂に入った時のこと。
クラスごとに風呂に入ったのだが、みんなでふざけていると、その秀才の腰に巻いていたタオルがパラッとはずれた。
秀才は慌ててタオルを拾い上げたが、ぼくはしっかり見た。
そして『秀才でも生えるんやなあ』と変に感心していた。
中学3年の時、受験勉強と称して、ぼくはある勉強を必死でしていた。
それは、国語でも英語でも数学でも社会でも理科でもなかった。
超能力の勉強だった。
目の前にろうそくを立て、精神を集中して火を消す訓練をやっていた。
『これが出来たら、合格する』と勝手に思い込んでやっていた。
2、3ヶ月続けて、何とか火を揺らすことが出来たのは、受験の前日だった。
結局その2、3ヶ月は、他の勉強をしなかった。
しかし何とか受験は合格した。
今でも、合格は超能力のおかげだと思っている。