そろそろお歳暮のシーズンが始まる。
うちの店はあまり関係ないのだが、それでも年末ということで、何かと忙しくなる。
さて、ぼくほどお歳暮に縁のない人間はいないだろう。
あげたこともなければ、貰ったこともないからだ。
若い頃は、「お歳暮なんかする金があったら酒を飲んだほうがましだ!」と、年末は毎日のように夜の街をうそうそしていた。
今となってはそのお金すらない。まあ、あってもお歳暮なんかには遣わない。
とことんそういう儀礼というのが嫌いなのである。
儀礼といえば、社会に出てからは年賀状も出していない。
学生の頃は「年賀状というのは、正月に書かんと意味がない」などと勝手な理由をつけて、来た人だけに出していたのだが、だんだんそれも面倒になって、ついには出さなくなってしまった。
お歳暮といえば、「盆暮れ男N」さんを思い出す。
バイト先のN屋で知り合った人である。
彼も昨日のMさんと一緒の歳で、ぼくより3つ年上だった。
一見すると「いい人顔」をしていおり、目上から信頼されるような風貌だった。
ぼくもそういうイメージで付き合っていたが、ある日この人がぼくに「そんなに根詰めて働かんでもいい。仕事は要領よ」というのを聞いて、この人に対する見方が変わった。
この人をよく観察してみると、どうも上の人に気に入られることばかりしている。
「このお客は店長の知り合いだから大切にしないと」などと言い、一般のお客に対しては「適当にやっとけ」という具合であった。
こういう人だったから、上の受けはよかった。いつも「N君、N君」だった。
しかし同僚からは好かれてなかった。(本人は好かれていると思っていたが)
「なんかこの人は!ごまばかりすりやがって」
ぼくはNさんとは逆で、要領という言葉を好まず、いつも反抗ばかりしており、当然上の人からは嫌われていたが、同僚とは仲良くやっていた。
ぼくは1年間このN屋でアルバイトをしたのち、ある大手の電器専門店に就職した。
実は、Nさんが「お前も、いつまでもアルバイトばかりはしておれんやろう。いい所があるけ受けてみらんか?」と誘われたのだ。
ぼくは上の者に嫌われていたくせに、なぜかN屋が気に入っていた。
ぼくとしてはしばらく続けたかったのだが、しょせんアルバイトの身、ボーナスもなければ保険もなかった。
親からいつもそのことを言われていたので、「受けてみるか」という気になった。
ぼくの面接の印象がよくなかったようで、なかなか採用通知が来なかった。
Nさんは、面接後10日ほどで採用通知がきており、さっそくN屋を辞め、新たな職場に向かった。
ぼくの所に採用通知がきたのは、それから2週間ほど経ってからだった。
審議の末、N屋1年のキャリアが認められたということだろう。
これでまた、先に採用が決まったNさんといっしょに仕事をしなくてはならなくなった。
ここからNさんの本領が発揮されるのだ。