頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

長崎屋の思い出 2

東京から戻ってきたぼくは、いろいろと就職を探していたのだが、結局これといったところが見つからなかった。
そんなおり、以前アルバイトで一緒だった女性から電話がかかった。
「ねえ、就職決まった?」
「いや、なかなかなくて」と、そこまでの経緯を話した。
「私、今ジャスコで働いてるんだけど、うちの取引先の人がアルバイトを探しているんよね。よかったら会ってみらん?」
「何の仕事?」
「電化製品の販売。その人日立の人」
もうすぐ4月である。
その時期に仕事を探そうとしても、いいところは見つからない。
「まあ、焦って変な所に行くよりも、アルバイトでもしながらいいところを探したほうがいいと思うよ」というその人の言葉に、「じゃあ、その人に会ってみようか」という気になった。
とりあえず履歴書をその人に預け、連絡を待った。
何日かしてその人から、翌日の10時にジャスコに来てくれという連絡が入った。

翌日、ジャスコ開店と同時に店に入ったぼくは、日立の人を待った。
30分ほどして、日立の人がやってきた。
「君がしんた君?」
「はい、よろしくお願いします」
「Iと言います。よろしく。君は販売をやったことはあるかね」
「いいえ初めてですけど」
I氏はちょっと困った顔をしていたが、「まあいいか。覚えるやろう」と独り言を言っていた。
そしてぼくに「じゃあ、行こうか?」と言った。
「え?どこにですか?」
「君は初めてだから、1週間ばかり他の店で研修してもらう」
「どこですか?」
「まあ、行ったらわかる」と言われ、ぼくはI氏の車に乗った。
『どこに連れて行くんだろう?』と思っていると、車はすぐに止まった。
長崎屋の地下の駐車場だった。
車を降り、6階まで社員用のエレベーターで行き、商談室と書いた部屋に入っていった。

そこには鼻の大きな福耳の男の人がいた。
「フロアー長、連れてきました」
「ああ、この人。ふーん」
そのフロアー長という人は、ぼくの履歴書を見ながら「経験あるの?」と言った。
I氏は「いや初めてですけど、若いからすぐに慣れますよ」と答えていた。
商談室を出、I氏は他の従業員にぼくを紹介して回った。
その中に、だらーっとエアコンを掃除している人がいた。
I氏は「おい、ボン」と声をかけ、「今日からうちのヘルパーになった、しんた君だ。よろしく頼む」と言った。
ぼくが「しんたです。よろしくお願いします」と言うと、そのボンと呼ばれた人は、こちらも向かずに「ボンでーす。よろしくー」と言った。
『なんか、こいつは?嫌な奴やのう』というのが、ぼくのボンに対する第一印象だった。
彼はぼくより3歳年上だった。その後付き合っていく過程でわかっていくのだが、無茶苦茶いい加減な男だった。が、どういうわけか馬が合った。

長崎屋で勤めた最初の頃は、嫌で嫌でたまらなかった。
あまりそこの人に馴染めなかったこともあったし、販売という業務に慣れていなかったせいもあった。
嫌になった時はいつも「どうせ1週間したらジャスコに行くんやけ」と思っていた。
しかし、1週間たった日に俄然楽しくなったのだ。
その日、初めて10万円を超える商品を売った。
おそらくそのせいだろう。急にハイになったのだ。
それから、元来のおしゃべりになって、そこの人たちに溶け込んでいった。