高校の頃、ロングホームルーム(LHR)という時間があった。
生徒主体の時間で、下らんことをやっていた。
覚えているのは、2年の時にやったN君について語るものだった。
N君とは同級生で、学校はよく休むし、女たらしだし、クラスでは浮いた存在の男だった。
主旨は「N君の姿勢を正す」といったようなもので、要は吊るし上げだった。
「N君はどうしてクラスに溶け込まないのですか?」
「N君、学校に来て下さい」
「N君はいつもこうじゃないですか!」
「N君は、こういうところが悪いから直してください」
N君を嫌っていた人が中心になって発言していた。
中には、「ぼくは友だちとして言うけど」と前置きして、散々悪口を言っている奴もいた。
ただ、一方的にN君が攻められていたわけではなく、彼も応戦をしていた。
この「N君の姿勢を正す」は2週続けてやったが、結局はただ悪口を言い合っただけの中途半端なものに終わった。
LHRの定番に「Xへの手紙」というのがあった。
クラスのある人の名前が書かれた紙をランダムに渡され、その紙に書かれた名前の人に匿名で手紙を書いていくものだった。
ぼくがもらった手紙で印象に残っているのは、1年の時にもらった手紙だった。
「しんた君は変わってますね。人は付き合ってみないとわからないと言うけど、実際はどういう人なんだろう?・・・今彼女を探しているみたいですね。頑張って下さい」と書かれていた。
書いた人はだいたいわかっていた。
ぼくはその人を彼女にしたかったから、何かピンとくるものがあった。
友人もその手紙を見て「あいつやろう」と言っていた。
でも、そこから何も始まらなかったのが、今となっては悔やまれる。
2年の時にもらった手紙は、スキャンダルまがいのものだった。
「以前Yちゃん(当時ちょっと付き合った人。上の人とは違う)と一緒に帰るのを見かけましたが、その後Yちゃんとはどうなりましたか?」などと書かれていた。
Yちゃんと別れて、けっこう時間がたってからもらった手紙だった。
「馬鹿が。何を今頃言いよるんかのう」とあきれていた。
2年の時、実に下らんことをやった。
タイトルは「男と女、どちらが偉いか?」だった。
こういう内容になると、俄然張り切る女子がいた。
男子が発言するたびに、「それは違う!」と反論する。
最後には男子対俄然張り切る女の戦いになった。
あまりに馬鹿馬鹿しいものだったので、ぼくは議論に参加せず居眠りをしていた。
すると、議長が突然「しんた君はこのことについて、どう思いますか?」と言った。
ぼくは『おれに振るな』と思いながら、「こんなの、止めろうや」と言った。
議長もそう思っていたらしい。
結局この議論は、そこで打ち切りになった。
2年の初めに「このクラスをどういうクラスにしていきたいか?」というのがあった。
ぼくは「そんな計画立てても面白くない。行き当たりばったりやけ面白いんやん」と言った。
この発言について、担任や議長は反論していた。議長はぼくの意見を踏まえて、無理やり「みんなで意見を出し合い、計画性を持って楽しいクラスにしていきましょう」と言った。
じゃあ実際2年の3学期が終わった時点で、議長の言ったようなクラスになったかといえばそうではなく、ぼくが言ったように「計画性のない行き当たりばったりの楽しいクラス」になった。
そんな下らんロングホームルームだったが、ぼくは別に嫌いなわけではなかった。
なぜなら、その時間だけは授業がないからだ。
生徒主体だから、居眠りしても咎められない。
ぼくは授業はよくサボったが、LHRだけはサボったことがなかった。
今でもあの「Xへの手紙」だけはやりたいと思っている。