金曜日、またしても電話である。
ぼくが「今度は何ですか?」と訊くと、お客は「お前、騙しやがったな」と言う。
し「何かお客さんを騙すようなことをしましたかねえ」
客「お前、この間芯を替えてないやろうが!」
し「ちゃんと替えましたよ」
客「替えてない!」
し「何が替えてないですか。替えた本人が替えたと言っているんですよ」
客「じゃあ、何でストーブが点かんとか!?おれはチャッカマンで点けたんぞ!」
し「点火プラグか灯油が悪いんじゃないですか?芯はちゃんと替えましたから。チャッカマンででも火が点くのなら、芯は悪くないです!」
客「替えてない」
し「いい加減にして下さい。いちゃもんつけてるんですか!?」
客「何かその口の利き方は!」
し「人をうそつき呼ばわりするからですよ」
客「とにかく、つかんのやけ見に来い!」
し「すぐ行きますから、待っとって下さい!」
ぼくは受話器を叩きつけて切った。
ちょうど配達の人がいたので、一緒に行ってもらうことにした。
行ってみると、お客はベッドに潜り込んでいた。
50代くらいの男性だった。
ストーブが消えたままになっていたので、ぼくが「ストーブを点けてみていいですか?」と訊くと、お客は「ああ」と答えた。
点火ヒーターはちゃんと点いている。
ヒーターを芯に押さえつけてみると、少し煙が出てきた。
そこで、ちょっと力を抜いてやると、火は点いた。
し「お客さん、ちゃんと点きますよ」
客「さっきまで点けとったけよ」
し「でも、電話では全然点かんと言ってましたよねえ」
客「・・・」
何度もやってみたが、火はちゃんと点く。
し「何度やっても点きますけど、どういう点け方してるんですか?」
お客はずっとベッドにこもったままで、ぼくと向き合おうとしない。
こちらが質問すると、たまに顔を出すだけだった。
このままそこにいても埒が明かないので、とりあえず電池だけ交換して、「別に問題ないです」と言って帰ろうとしたら、やっとお客は口を開いた。
「灯油が悪いことも考えられますか?」と言う。
し「ストーブの故障の原因は、ほとんど灯油です」
客「じゃあ、スタンドに行って文句言ってこよう」
し「文句言っても、スタンドは『自分のところは悪くない』、と言って認めませんよ」
客「そうですねえ」
し「今回は灯油も悪くなかったみたいだし、しばらく様子を見てください」
そう言って、ぼくはお客の家を出た。
結局、お客はベッドの中から出てこなかった。
おそらく、ぼくが電話で怒鳴ったので怖かったんだろう。
昨日の話。
閉店前に、夏によくこの日記に登場した、酔っ払いのおいちゃんが現れた。
泥酔状態である。
かかわると面倒なので、ぼくはちょっと距離を置いてこのおいちゃんを見張っていた。
すると、おいちゃんはテレビの前に座り込み、タバコを吸おうとして火を点けた。
もちろん店内禁煙である。
ぼくは慌てておいちゃんに駆け寄り、「おいちゃん、何回言うたらわかるんね。ここは禁煙やろ!」と言った。
おいちゃんは「ちゃんと消しますけ」と言って、火の点いたタバコを床に捨てようとした。
ぼくは頭に来て、「いい加減にしとけよ。帰れ!!」と言い、おいちゃんの手からタバコを取り上げ、腕を取り、店の外に引っぱって行った。
おいちゃんは「何かコラァー」と大声で凄んだ。
ぼくは、さらに大きな声で「『コラァー!』ちゃ、誰に言いよるんか!!」と怒鳴った。
そして「ここなら何ぼ吸ってもいいよ」、と取り上げたタバコを返そうとすると、おいちゃんは「いらん!」と言う。
ぼくは「何が『いらん』ね。あんたのタバコやろ。吸い」と言って、タバコをおいちゃんの口に無理やり差し込んだ。
おいちゃんはしぶしぶタバコを吸い始めた。
ぼくが「おいちゃん、いい加減にしとかんと警察呼ぶばい」と言うと、おいちゃんは下を向いて「いや、何も悪いことはしてません」と小さな声で言った。
ぼくは「今度は警察やけね。わかったね」と言って売り場に戻った。
最近、まともなお客が減って、こんな客ばかりが来る。
ホント疲れます。