メンバーズカード
残念ながら、今日は『荒らし君』は登場しなかったようだ。
30日の午後10時台以降は、訪れてもいないようだし。
もしかしたら、現れては消え、現れては消え、というのが『荒らし君』のマニュアルにあるのかもしれない。
とういうことは、また登場することもあるだろう。
気長に待ってますから、お立ち寄りの際はちゃんと足跡を残していって下さいね。
せっかく発言の場を設けてあげたのだから。
しかし、『本当で閉鎖しろ』には笑ってしまった。
今日、会社でギャグとして使わせてもらった。
本人は、きっと「本気(マジ)で閉鎖しろ」と書こうとしていたのだろう。
昨日の『荒らし君』登場で、思い出したことがある。
前の会社で、ぼくはCDやLDといったソフト類を扱っていた。
そこでメンバーズカードを発行していたのだが、それはメンバーズカードに買った日付と金額を書き入れて、何ポイントか貯まると、その5パーセント分のCDがもらえる、というお手軽なものだった。
一度だけだったが、このカードを悪用しようとした人間がいた。
店の近くにある私立中学の生徒だった。
この中学校は進学校なのだが、自分が頭がいいというのを鼻にかけた生徒がわりと多かった。
そのせいか、やることがずる賢い。
彼はこのポイントを、巧みに修正してCDに代えようとした。
ただ間抜けなことに、彼は常識がわからなかったのだ。
CDの価格は、だいたい3千円くらいのものである。
いくらまとめて買っても、3万円が限度だろう。
このメンバーズカードは、3千円購入の場合は「3000」と書くのだが、この生徒は、「3000」の前に「10」を書き加えた。
つまり「103000」である。
その作業を、何度か繰り返し、彼は何と「680000」ポイントを稼いだのだ。
680000ポイントだと、3万4千円分のCDがもらえる。
彼は、それをビートルズのアルバムに換えてくれと言った。
全部で10枚だった。
パートさんが応対していたのだが、金額が金額だけに、すぐにぼくに言ってきた。
「主任、これ、おかしいんですけど」
「え、680000ポイント!?」
「ええ、おかしいでしょ」
ぼくは、その中学生のところに行き、「これ、あんたが買ったと?」と訊いた。
すると彼は、「お父さんのカードですから、ぼくは知りません」と言った。
明らかにおかしい。
「今ビートルズのアルバム切らしとるけ、取り寄せるまで待っとって。入ったら連絡するけ」
そう言って、ぼくは相手の電話番号を聞きだした。
彼が帰ってから、メンバーズカードに書かれている日付の、レジの記録用紙を全部調べた。
しかし、そこに書かれている金額を、一人で買った人はいなかった。
「やっぱり、偽造か。どうしようか」
とぼくはスタッフと話し合った。
はっきりと本人に言っても、「お父さんのだから、ぼくは知りません」と言うだろうし、その中学の生徒なら逆恨みして、また何をしでかすかわからない。
ここは相手を戦意喪失させる方法をとろう、ということになった。
まずとった手は、こちらから相手には連絡しないで、相手から連絡があるのを待つ、ということだった。
2日後、彼から連絡があった。
「もしもし、ビートルズはまだですか?」
「悪いねえ。まだ届いてないんよ。届いたら連絡するけね」
まだ、次の一手をとらない。
じらさないと相手は応えない。
それから2日後。
「もしもし、ビートルズはまだですか?」
「もう少し待ってね」
次の日。
「ビートルズはまだですか?」
「ごめんね。まだなんよ」
翌日。
「ビ-トルズはまだですか?」
「メーカーが切らしとるみたいなんよ」
「本当に注文したんですか?」
「注文はしたんやけど。ごめんね」
そして、メンバーズカードを受け取ってから1週間が経った。
「もうビートルズは届いたでしょうね?」
「今日で8枚揃ったんやけど、2枚がまだなんよ」
「じゃあ、8枚取りに行きます」
「いや、このカードの場合、全部揃わんと渡せんのよね」
「換える気がないんやろが!」
「いや、あるよ。ああ、それと言い忘れとったけど、このカードお父さんのやったねえ」
「そうやけど」
「じゃあ、揃ったら、お父さんに連絡するね」
「・・・、わかりました」
それから、30分後、事務所に電話が入った。
「あのう、そちらのレコードのコーナーで、ビートルズのCD頼んでたんですけど、キャンセルします」
その後、彼から二度と電話は入らなかった。
いや、二度と店には来なかった。
彼は「店から電話がかかったらどうしよう」、そればかり考えて、ヒヤヒヤしていただろう。
まあ、こちらから電話することはなかったが、メンバーズカードだけはずっと取っておいた。
ああ、また今日も『荒らし君』のおかげで日記ができた。
彼には重ねて感謝しなくては。