うちの店のワークステーションは、富士通のパソコンを使用している。
そのせいか、マウスパッドにはタッチおじさんの絵が描かれている。
うちの店長は、そのタッチおじさんによく似ている。
そう、タッチおじさんに似ているということは、めがねをかけたハゲ、ということである。
ところで、ぼくのいる売場は、店の入り口の近くに位置している。
ぼくがよく行っている事務所や倉庫やトイレは、一番奥の売場のさらに奥に位置している。
そこにたどり着くためには、いくつかの売場通り抜けなければならない。
その途中、お客さんから「あれはどこにあるんですか?」とか「この商品の在庫はありますか」とか、中には「この商品を説明して下さい」といった質問をよく受ける。
自分で答えられる範囲であれば応対するのだが、わからないことであれば下手に知ったかぶりなどをせず、すぐに店内放送で係の人を呼ぶことにしている。
一人終わったら、また他のお客さんに声をかけられることもしばしばで、結局トイレにたどり着くまでに20分を要した経験もある。
さて、今日の話である。
夕方トイレに行きたくなって、いつものようにいくつかの売場を抜けていった。
珍しく、誰にも声をかけられずに最後の売場に来た。
しかし、そこでつかまった。
「すいません。○○という商品はどこにありますか?」
幸い、その商品のある場所をぼくは知っていたので、お客さんをそこまで案内しようとした。
「こちらです」と、その商品の置いてあるところに目をやると、運良くそこに店長が立っていた。
ぼくはラッキーと思いながら、「あっ、あそこに店ちょ・・」と言って詰まった。
そうである。
このお客さんに、「店長」などと言ってもわからないだろう。
そこで、何と言ったらわかってもらえるだろうか、と考えを巡らせた。
「ネクタイをしている人」と言っても、そのへんにネクタイをしている人は何人かいる。
「めがねをかけている人」も同様である。
どう言おうかと迷っている時、口が勝手に動き出した。
「あそこに『ハゲのおっさん』が立っとるでしょう。そこにありますよ。わからんかったら、あの『ハゲのおっさん』に聞いて下さい」
お客さんは急に笑い出した。
「ああ、あの『ハゲのおっさん』の立っている所にあるんですね」
「そうです。あの『ハゲのおっさん』が立っている所です」
「ありがとうございました。よくわかりました」と、お客さんは笑いながら、『ハゲのおっさん』の立っている所に向かって行った。
やはり、何か特徴を持っている人は得である。
いざと言う時に役に立つ。
そういえば店長は、お客さんにぼくの部門のことを聞かれた時、「あそこに『白髪のおっさん』がいますから、彼に聞いて下さい」というのだから、おあいこである。