免停決定で意気消沈したテツローに代わって、アラカワという男が運転することになった。
河口湖ICで高速を降り、そこから富士山五合目に向かった。
天気は良く、気温は上昇、車内は和気あいあい、こんなムードでたどり着いた富士五合目は、寒かった。
みやげ物を買い、記念撮影をし、早々に立ち去った。
ちなみに、ぼくはその時に買った木の根で作ったパイプを、いまだに愛用している。
さて、ぼくは車の中で、「今日は泳げんとか?」と、一人騒いでいた。
ここで泳げなかったら、せっかく海パンを履いてきた意味がない。
しかし、誰も「泳ごう」などというものはいない。
しかたないので、次に行った白糸の滝で、ぼくは滝壺の途中まで行って、一人で水と戯れていた。
その時写した写真があった。
オレンジのTシャツと、真っ赤なトランクス(海パン)で腕組みしている写真である。
ぼくが今まで撮った写真の中で、一番気に入っているものだ。
後日その写真の入ったバッグを、新宿歌舞伎町のパチンコ屋で置き引きにあってしまった。
ということで、その写真は手元にはない。
誰かがネガを持っているはずだが、誰がその写真を撮ったのかも忘れてしまっている。
その後、御殿場から東名高速に乗り、テツローの家がある相模原に向かった。
相模原の駅前にある写真屋にフィルムを預け、現像待ちのため、ぼくたちはテツローの家に行った。
テツローの家で、ワイワイやっていると、例の千葉の友人キタミが、「ないよ」と言って騒ぎ出した。
「何がないんか?」
「免許証がないんだよ」
「持ってきてないんやないか?」
「いや、朝は確かに持っていた」
「じゃあ、どこかに置き忘れたんか?」
「そうみたい」
それから、どこで置き忘れたのかを、みんなで推理した。
「中央高速のパーキングは?」
「その時は車の中にあった」
「河口湖は?」
「その時は持ってた」
「じゃあ、富士山五合目か?」
「うーん、そこからの記憶がない」
「なら、地元の交番に届けがあるかもしれん」
いつしか、富士山五合目に置き忘れた、ということになってしまった。
「じゃあ、さっそく交番に電話してみよう」ということになった。
が、富士山五合目が静岡県か山梨県かで、みんなは悩んでしまった。
「富士山というくらいだから富士市だろう」
ということで、ぼくが代表して富士市の警察署に電話すると、その近くの交番を教えてくれ、「そこで聞いてみてくれ」ということだった。
教えられた交番に電話をし、事情を話して聞いてみた。
「いや、うちには届けはないけど」
「そうですか・・・」
「どこで忘れたのかね」
このおまわりさんは人の話を聞いてない。
再度「富士の五合目です」と言うと、
「ああ、富士五合目ね。それなら、管轄は山梨県だ。富士吉田の警察に電話して聞いてみて」
ぼくはさっそく富士吉田の警察署に電話をかけ、五合目を管轄している交番はどこかと尋ねた。
「○○という交番です。電話番号は・・・」
教えられたとおりに電話をしてみた。
また一から事情を話し、そういう届けはなかったかと聞いた。
「いや、来てないですなあ」
「そうですか・・・」
「どこに置き忘れたか覚えてないの?」
「はい、それがわかったら、苦労しませんけど・・・」
「じゃあ、そこに売店があるから、そこに聞いてみたらどう?」
「電話番号がわかりません」
「ちょっと待ってよ。・・・、電話番号は・・・」
売店に電話してみると、「ああ、お土産の入った袋の忘れ物がありましたよ」ということだった。
「すいません。中身を確認して欲しいのですが・・」
「あ、免許証が入ってるよ」
「それです。それです」
「送りましょうか」
「いや、今から取りに行きます」