頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

夜の訪問者

ぼくの働く職場は、つくづく面白いところだと思う。
またまた事件が発生したのだ。
今朝出勤すると、店長代理がぼくを見つけて、「しんた君、大変なことになっとるよ」と言う。
「何かあったんですか?」
「いやね、昨日の夜、店のセンサーが反応して、発報したらしいんよ」
「ああ、またですか。それで警備会社が来たんですか?」
「うん。調べてみたら、センサーが反応したのは、しんた君の売場やったんよ」
「いつもうちですねえ」
「うん。でも、今日はちょっと状況が違うんよねえ」
「え?」
「臭いっちゃ」
「は?!・・・やったんですか?」
「うん、清掃の人が、ブーブー言いながら掃除しよったよ」

ここ何週間か、ほとんど毎日、夜になるとセンサーが反応しているらしい。
警備会社が駆けつけてみると、誰もいない。
人が入った気配もない。
おかしいと思い調べてみると、異様な臭いがするのに気がついた。
臭いの根源を訪ねてみると、そこには何か液体のようなものがあったという。

ぼくは慌てて売場へと急いだ。
店長代理が、「ね、臭うやろ?」と聞いた。
しかし、ぼくにはいつもの臭いとしか感じられない。
「うーん、よくわかりませんねえ」
「ここまで来てん。わっ、臭うやん」
そう言われると、そういう気もする。
すると、今まで麻痺していた嗅覚がだんだん効きだした。
かなりの臭いである。
「そういえば・・・」
「そうやろ。ここ一面にあったらしいけ」
そこにあったものは、先に言った液体のようなものだったという。
その正体は排出物、つまり『うんこ・しっこ』の類である。
臭いからすれば、これは『しっこ』ではない。
『うんこ』である。

いったい、何がこの排出物をばら撒いたのだろうか?
こういう液体系の『うんこ』は、猫や犬のものではないらしい。
もっと小さな動物だという。
ということは、ネズミかイタチの類だろう。
おそらく臭いの強さからいって、イタチのものだと思われる。
店長代理は、「今日、罠を仕掛けて帰るけ」と言った。

しかし、仮に罠にはまったとする。
その小動物がイタチだった場合、誰が処理をするのだろうか。
罠ごと外に運び出すのはたやすい。
しかし、その罠を誰が運ぶのかが問題になってくる。
下手すれば、一発かまされるのである。
その際、その人は息を止めて外まで持って行かなければならない。

手袋か何かをしてないと、手に臭いが付いてしまう。
かなり強い臭いなので、手に付いてしまうと、一度や二度手を洗ったくらいでは臭いは落ちないだろう。
食事の時、箸を口元に持ってくるたびにイタチの臭いがすれば、何を食べているのかわからなくなるだろう。

それだけでは万全ではない。
イタチ持ち運び用の服を着ていないと、いったん衣服に臭いが付いてしまえば、その人はその日から『イタチ』とか『スカンク』とかいうあだ名が付いてしまうだろう。
まったくもって世話の焼ける訪問者である。

さて、もうイタチ君は罠にはまっただろうか。
ネズミ捕りを大きくしたような、籠状の罠である。
もし捕まっているとすれば、朝ぼくと対面することになる。
ぼくは今、イタチ君を見たいような、見たくないような、複雑な気持ちでいる。
小動物は目がかわいいから、あの目を見るだけでも、けっこう癒し効果がある。
しかし、一発やられるのも嫌である。

そういえば、今日の彼へのおもてなしは、鳥のから揚げだった。
贅沢とも思われるが、イタチ君はから揚げが好物らしい。
少しばかり贅沢でも、早く退去してもらうにこしたことはない。
『野生のにおいのする店』といえば聞こえがいいが、つまり臭い店である。
「あの店臭いよ」という評判が立てば、お客さんは敬遠して近寄らなくなるだろう。
まあ、から揚げでも何でも差し上げますから、早めに捕まって下さいませ。