前にも話したが、ぼくは高校時代から8年間想い続けた人がいた。
『ショートホープ・ブルース』を書いたのは21歳の時だから、その真っ最中に書いたということになる。。
当然、ここに出てくる『君』はその人のことだ。
その人のどこが好きだったのか?
まあ、そういうことは一概には言えないが、その要素の一つに頬というのがあった。
その頬を見ると、なぜか落ち着いた。
今で言う『癒し』ということになるだろうか。
その頬を見るたびに、優しくなれる自分がいた。
この歌詞は、そんな自分を思い出しながら作ったものである。
さて、歌詞と言うくらいだから、当然この歌詞には曲がついている。
あらかじめストックしてあった曲を引っ張り出して、この歌詞で歌ってみた。
数ある曲を引っ張り出してみたのだが、何か一つピンと来ない。
そこで、新たに曲を作ることにした。
モチーフはサディスティック・ミカ・バンドの『さよなら』という曲だった。
いろいろとギターコードをいじくりながら作った。
出来上がってみると、なかなかいい。
曲が出来た直後、「これは人に聞いてもらわないと」と思い、さっそくギターを持ち出して、代々木公園で歌いに行った。
ところがである。
歌のおにいさんを聴いてもらったらわかるが、この曲は派手な曲でない上に、ガンガンやる曲でもない。
そのため、あの広い代々木公園では誰一人見向きもしなかった。
数日後、何人かの友人の前で歌う機会があったので、この歌をうたってみた。
歌い終わったあと、「どうせ目立たん歌やし」などと悲観していると、友人の一人が「もう一度歌って」というアンコールがかかった。
二度目を歌い終わったあと、その友人が言った。
「この歌、いけるよ。ポプコンか何かに出してみたら?」
「そんなに良かった?」
「ああ。コード進行がユニークだ」
おれを聞いて気をよくしたぼくは、この曲でポプコンを受けようと思い立った。
ところがである。
この曲は単調な曲ではあるが、細かい節回しが所々にある。
そのため、歌うのが非常に難しいのだ。
もし、その節回しを適当にやってしまうと、この歌は生きてこない。
そこで、練習する必要が出てきた。
しかし、狭い下宿で練習をしていると、下宿のおばさんからは小言を言われ、他の部屋の人たちから白い目で見られる。
スタジオでも借りて、とは思ったものの先立つものがない。
考えたあげく、思いついたのはトラックの荷台であった。
当時、ぼくは運送会社でアルバイトをしていた。
帰りにいつもトラックの荷台に乗せてもらっていたのだが、そこでだったら、どんなに大きな声を出しても誰も咎めない。
ということで、トラック荷台はスタジオと化した。
バイトは3ヶ月半やったので、その間毎日荷台で歌っていたことになる。
ところがこの曲、歌えば歌うほど難しくなっていくのだ。
それまで歌ってきた曲はすべて消化出来ていたのだが、この歌だけはどうも消化出来ない。
そのうち、ぼくはこの歌をうたうことに嫌気がさしてきた。
バイトを辞めた頃は、すでに諦めていた。