頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

彼女は自分のことを『クミチン』と呼んでいる

ぼくの店に、クミチンという女性従業員がいる。
50歳前の普通の主婦なのだが、行動が少し変である。
最初の頃こそ、ぼくも普通に見ていたのだが、時間を追うごとに、彼女の偉大さがわかってきた。
また、それを裏付けるエピソードも耳にするようになった。

ある時、クミチンが「半額だった」と言って、隣のスーパーでペットボトル入りのジュースを10本近く買ってきた。
車もないのに、どうやって持って帰るのかと思っていると、「重たいから、今日は持って帰れない。明日持って帰ろう」と言い、会社に置いて帰った。
ところが翌日、そのジュースをアルバイトの学生に「飲んで下さい」と1本ずつ配ったという。
全員に配り終えた後、クミチンは一言言った。
「ああ、これで軽くなった」

改装の時、ぼくの売場を手伝ってもらった。
「Hさん(クミチンのこと)は、まずこの列の商品の清掃をやって下さい」
この列とは、わずか什器8台分である。
長さにすると、7メートル足らず。
クミチンは無表情にうなずき、清掃を始めた。
1時間後、クミチンは最初の什器の商品を磨いていた。
2時間後、クミチンはまだ最初の什器の商品を磨いていた。
3時間後、クミチンの相棒は、早くも2列目に取りかかっていた。
クミチンはというと、やっと2台目の什器にさしかかったところだった。
4時間後、休憩。
5時間後、クミチンはまだ2台目をやっていた。
6時間後、ようやく3台目に入ったクミチンは、居眠りを始めた。
7時間後、クミチンの相棒は、すでに3列目に入っている。
クミチンは、まだ3台目をやっていた。
8時間後、「残りは明日しまーす」と言って、帰っていった。
その日クミチンが磨いた商品は、什器3台分だった。

リニューアル・オープンの時、化粧品の宣伝販売をやっていた。
「今日は半額です」という声を聞いたクミチンは、仕事中からそわそわし、「仕事が終わったら、行かないけん」と言っていた。
仕事が終わり、私服に着替えると、クミチンは一目散に化粧品売場に走って行った。
目の色が違っていた。
そこに集まったお客さんは、笑顔で宣伝販売の兄ちゃんの言うことを聞いていた。
しかし、クミチンは違った。
がっしりとした体を左右に揺らしながら、兄ちゃんを食い入るように見つめていた。
「みなさん、手を出して下さい」と言う兄ちゃんの声に反応したクミチンは、後ろのほうから体を乗り出して、一番前に手を突き出した。
あいかわらず、真剣な表情である。
そこで化粧品を手に塗ってもらっていたが、クミチンは満足そうな顔をしていた。

ある日、ぼくの売場のそばをクミチンが歩いていた。
何をしているのだろうと、少し離れたところから見ていると、クミチンは突然立ち止まり、右側を向いた。
どうやら、そこにある商品が気になっている様子だった。
ほどなく動き出したが、やはりその商品が気になっているようで、そちらを見ながら歩いていた。
その時だった。
他のお客さんとぶつかってしまったのだ。
ハッとしたクミチンは、慌てて「すいません」と謝った。
が、あいかわらず顔は右を向いたままだった。

今日のこと。
仕事中にクミチンは、足を床にとんとんと叩きつけていた。
何をやっているのだろうと見ていると、突然クミチンは靴を履いたまま靴下の中に手を入れた。
そして、掻きだした。
どうやら、クミチンは足の裏が痒かったようだ。
しかし普通足が痒い時、それが仕事中といえども、靴を脱いで、靴下の上から掻くものである。
上記のような難しい動作をする人も珍しい。
さすがクミチンである。

ところで、今日の日記のことは、クミチンには何も言ってない。
クミチンのことを知っている人、内緒にしといて下さい。