実家まで歩く、その一歩一歩が頭に響く。
5分もあれば着く家なのに、その距離が遠く感じられる。
「遠いのう。おれはもう倒れるぞ」と、嫁さんに向かって弱音を吐きながら歩いた。
「何言いよるんね。すぐそこやんね」
実家に着くなり、母が待ちかまえていたように、酒を振る舞った。
純米の「西の関」である。
おお、大好きな酒がここで待っていた。
冷やで飲むと最高なのだが、今冷やで飲むと差し障りがある。
「悪いけど、燗つけてくれん?」
「燗?」
「うん、寒気がするけ」
とりあえず、2合飲んでから、そばを食べた。
気がつくと、もう12時を過ぎている。
「ああ、もう年が明けた。ぜんぜん気がつかんかった」と、母が言った。
頭の痛さはあいかわらずながらも、何とか無事に年を越せたわけだ。
明けて元日。
昨日の体調の悪さは何だったのだろうか、と思えるほど、頭の痛みは取れ、体中に元気がみなぎっていた。
毎年元日はゆっくり寝ているのだが、今年は普段どおりに目が覚めた。
新聞を取りに行き、普段どおりの朝食を食べ、ずっとテレビを見ていた。
昼から、また実家に行き、おせちを食べた。
その後、嫁さんと二人で初詣に行った。
初詣と言っても、太宰府天満宮や宗像大社のような有名な神社に行ったのではない。
行ったのは、地元の小さな神社で、小学生の頃からよく遊んでいた場所でもある。
この神社に初詣に行くのは、生まれて初めてのことだった。
「一地域の神社で、普段は神主もいない所だから、さほど参拝客もいないだろう」と思っていたのが甘かった。
かなりの人出で賑わっている。
なるほど、この地域は人口がかなり増えているから、参拝客の多いのも有りうる話である。
しかし、普段人もいない神社だけに、出店が出ているわけではない。
狭い参道には、車がぎっしり停まっていた。
もちろん、普段が普段だけに交通整理をする人もいない。
ぼくたちは、出る車、入る車を避けながら、神社の階段を登って行ったのだった。
こういう田舎神社でも、神殿の前に行くと、不思議と敬虔な気分になるものである。
神妙な面持ちで頭を下げた後、柏手を打った。
「今年一年、無事でありますように」
再び頭を下げ、神殿を後にした。
帰る途々、「もっと気の利いた願い事はなかったのだろうか」などと考えていた。
とはいえ、今年は他に、これといった願い事が浮かばない。
「まあ、『無事是貴人』と言うくらいだから、これに増した願い事はないだろう」ということで、自分を納得させることにした。