【その1】
ぼくの受け持っている電器売場は、人員が少ない。
そのため、電器の売場でありながらもセルフ形式を取っており、接客というのは、お客さんから声をかけられた時くらいにしかしない。
この辺が、闇雲に販売スタッフの多い専門店とは違うところである。
そのかわりに、商品が入荷した時は、人数の少ない分、一人あたりの仕事量が多くなる。
そういう時に限って、お客さんから「すいません」と声がかかるのだ。
それも一人や二人ではない。
来る時は、一度に集中してくる。
その応対に、かなりの時間を要するのだ。
【その2】
ようやく『すいません』攻撃が終わり、「ああ疲れた。ちょっと息抜きにタバコでも吸ってこよう」と思い、売場を離れかけた時、決まって店内放送で「電話が入ってます」という呼び出しがかかるのだ。
受話器を取ると、取引先からで、別に電話しなくてもいいような内容である。
「はいはい、わかりました。その件は後で連絡します」
しかし、大した用ではないので、後で連絡したことはない。
希に連絡することがあっても、「えーっと、何の用でしたかねえ?」と返されることが多い。
【その3】
タバコを吸っている時にも、よく電話が入る。
それも火をつけて、すぐのことが多い。
これまた取引先からのことが多く、先ほどと似たり寄ったりの電話だ。
「悪いけど、今事務所におるんやけど。かけ直してくれん?」
先方は「はい、わかりました」と言うものの、大した用ではないので、かけ直してくることは、まずない。
【その4】
トイレに入っている時もそうである。
よく呼び出しを喰らう。
先日も話したかもしれないが、特に大の時が多い。
恥を忍んで「今から、大に行ってくるけ」と、わざわざ周りの部門の人に告げてから行っているのにである。
トイレの中で、「ちゃんと言ってから来たのに、何で呼ぶんかのう」と、一人でブツブツ言いながら、お尻を拭いている。
行ってみると、別に大した用ではないことが多い。
用が終わって、再びトイレに行っても、二度目は出ないのである。
【その5】
食事中にもそんなことがある。
前にいた店の時は、かけそばを出前で取ることが多かった。
休憩室で、「さあ、食べよう」と思っていると、呼び出しがかかる。
行ってみると、そこに取引先の人がいる。
「今、食事中やけ」と断るのだが、「いや、すぐ終わりますから」と相手は食い下がる。
しかし、すぐ終わったことは一度もない。
少なくとも30分は話していくのである。
ようやく解放されて、休憩室に行ってみると、そばはすでに伸びてしまっている。
今の店に移ってからは出前を取るようなことはなくなったが、それでもカップラーメンにお湯を入れた時に、呼び出しを喰らうことがある。
戻ってみると、カップラーメンはすでに伸びきって、雑炊のようになっている。