立ち上がった時にふらついてしまったのだ。
というより、危うく転ぶところだった。
体勢を整えてから歩き出したものの、どうもバランスがうまく取れない。
廊下の中央をまっすぐ歩いているつもりなのに、なぜか壁のほうに寄ってしまう。
荷物を避けたつもりなのに、なぜか体が触れる。
片目をつぶると遠近感がなくなるのは知っていたが、まさかバランスまで失うとは思ってもいなかった。
まあ、しばらく歩いているうちに、何とかバランスを保つコツを掴んだ。
が、それでも何かしっくり来ない。
そこで、通りがかりのパートさんに「眼帯した時、その目は開けとっていいんかねえ?」と聞いてみた。
パートさんは「いいですよ」と言った。
「やっぱりね。片目をつぶって歩くと、どうもバランスが取れんでねえ…」
「え、目をつぶってたんですか?(笑)」
「‥‥、ああ」
笑われてしまったが、聞いてみてよかった。
安心したぼくは、眼帯をした左目を開けた。
なるほど、目を開けると楽である。
これで一日乗り切れると思ったぼくは、接客したり、荷物を運んだり、携帯で遊んだりという普通どおりの行動を始めた。
ところが、しばらくしてからのこと。
今度は頭が痛くなってきた。
ぼくは熱気でのぼせると頭が痛くなるのだが、特に店の中が暑いわけではない。
頭痛の原因の一つになっている、夜更かしをしたわけでもない。
「おかしいなあ」と思い、いろいろと原因を考えてみた。
しかし思い当たることがない。
「ということは、原因はもしかして眼帯じゃないだろうか?」
という疑惑がぼくの頭の中をよぎった。
眼帯をしていても目は開いているわけである。
ということは、両目とも何かを見ているということだ。
眼帯をつけてない右目は、当然外を見ており、一方の左目は、眼帯の内側を見ているわけだ。
つまり、遠くと近くを同時に見ていたことになる。
そのために、目の神経が疲れてしまったのだ。
それに加えて、ぼくは暇があれば携帯の小さな文字を読んでいる。
それが、ただでさえ慣れないことをして疲れている神経に、追い打ちをかけ、頭痛に繋がったのだろう。
ということで、今日は携帯を見ないことにした。