ぼくの飲み友だちに、Kさんという人がいた。
その人は初代の時に、どの社員よりいい評価を受けていた。
トップは何かにつけ「Kちゃん、Kちゃん」で、彼が何か問題を起こしても、すべて不問にしていた。
ところが、二代目に変わってから、Kさんの評価は最悪のものになった。
Kさんはある部門の責任者をしていたのだが、二代目はそれを認めず、Kさんより年下の人間を、Kさんの上に据えた。
ここからKさんの転落が始まる。
Kさんは酒に溺れるようになり、いつも人事不省になるまで飲み続けていた。
ぼくも時々一緒に飲みに行ったりしたが、その荒れ方はひどかった。
気がつけば刃物を手にしていた、ということもしばしばあったようだ。
その後、会社から禁酒令を出されたKさんは、それを不服として会社を辞めてしまった。
徐々に牙を抜かれていく個性派集団。
その中には、自分かわいさに寝返る人間もいた。
以前は口を開くたびに会社の悪口を言っていた人間が、ある日突然トップのポチとなっていた。
親会社の社長の息子が開発したという、何の役にも立たない商品があった。
当然売れ行きが悪い。
そこで、「その商品をどう売っていくか」ということで会議が行われた。
会議中、突然その男が手を挙げた。
そして、「私に任せてください。責任を持って売りますので」と言った。
トップはその意気を買い、その男にすべてを任せた。
それをお客さんに売るのなら、別にどうということはなかった。
ところがである。
功を焦った彼は、何とその商品と契約書を持って店内を回り、社員一人一人に「会社のためやけ」と言って、無理矢理商品を売りつけようとしたのだ。
みんなは唖然とした。
それもそのはず、前の日までさんざん会社の悪口を言ってきた人間なのである。
同期の者は、『何が会社のためだ。おまえからそんな言葉を聞きたくない』と思って、ほとんどが買わなかった。
が、事情を知らない後輩たちは、泣く泣く買わされていたようだ。
その後、不正を強要するトップが現れたり、人を叩いて使うような前近代的なトップが現れたりした。
そのつど個性派集団は、牙を抜かれていく。
誰もしゃべらなくなった。
そして、笑わなくなった。
もはやヤル気を失っていたのだ。
そして五代目トップの時に、同期社員10数人が辞めた。
その中にぼくもいた。
みな会社に望みをなくしてしまったのだった。
その翌年、社員はみな親会社に籍を移した。
もはや、名前だけの会社になってしまったのだ。
そしてその6年後、創業してから19年後、その会社は終焉の時を迎えることになる。
かつては百数十人いた同期社員は、すでに8人しか残っていなかったという。
ちなみに、そのうちの二人はポチである。
さて、何がこの会社を潰したかだが、いろいろ経営的な問題があったかもしれない。
が、その背景には、経営陣と社員の間がしっくりいってなかった、ということがある。
創業から潰れるまで、トップは7人いた。
一癖も二癖もある人間ばかりだった。
つまり個性(トップ)と個性(社員)のぶつかり合いが、悪い方向に進んだのだ。