【誕生日とタバコ】
今日はぼくの47回目の誕生日だった。
30代後半から、誕生日があまり意味のないものに思われるようになり、だんだん関心を抱かなくなっていった。
そのせいだろうか、かつて誕生日にあった、特別な思いや、胸のワクワクするような期待や、過去に心を遊ばせることや、それに伴う感傷といったものが、何一つなくなってしまった。
今回の誕生日も、昨日嫁ブーに「明日誕生日やね」と言われるまで忘れていた次第である。
さて、その誕生日の朝、ぼくはいつものようにタバコに火を点けた。
これが47歳最初のタバコということになった。
【この先1年を暗示するのか】
その時のこと。
ある疑問が氷解したのだ。
実は、朝起きてからずっと頭の中で一つのメロディが繰り返し流れていたのだが、その曲名が思い出せないでいた。
そのことが、タバコに火を点けたとたんにわかったのだ。
なぜわかったのかというと、タバコに火を点けた時に、その歌の歌詞を思い出したからだ。
その歌詞とは、
『これからどうしようと
タバコに火をつける
明日があるからと
今日は黙り込む』
その歌は、吉田拓郎の初期の歌である『暮らし』だった。
それにしても、誕生日の朝に、どうしてこんな意味深な歌がぼくの中に流れていたのだろうか。
まさかこの歌が、これからの1年間を暗示しているとでもいうのか。
そうだとしたら、困るなあ。
そんな緊張感のない生活を1年間送るかと思うと、やりきれなくなってくる。
【高校時代のプレゼント】
その『暮らし』が流行っていた高校2年生の時のことだった。
誕生日に同級生からプレゼントをもらった。
「しんた、今日誕生日やろ」
「うん」
「これ、プレゼント」
「おお、ありがと」
手渡された物は、新聞チラシに包まれた小さな箱だった。
それを開いて、ぼくは思わず声を上げた。
「おお、これは!!」
それは何と、当時のベストセラー、セブンスターだった。
当時、セブンスターが売れすぎて、どこのタバコ屋でも品切れ状態だったのだ。
それをその同級生は、どこからか調達してきてくれたのだ。
感謝感謝だった。
それを吸ったぼくは、「おそらく、このタバコを一生吸い続けていくだろう」と思ったほど、おいしく感じたのだった。
ところが、マイルドセブンが発売されると、味に不満を感じながらもそちらの方に変更した。
その後ライトが発売されるとそちらの方に、さらにスーパーライトが発売されるとそちらの方にと、軽いタバコに移っていったのだ。
ということで、いつの間にかセブンスターは遠い過去のものとなった。
おそらく、今セブンスターをもらっても、嬉しくはないだろう。
強すぎて吸えないのだ。