頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

左遷(8)

またしても外に出る生活が始まった。
他の従業員から出てくる見込み客を中心にフォローしていった。
最初のうちは当たりもよく、決定率は高かった。
そのせいもあってか、電子レンジ部門の売り上げは順調に伸びていった。
ところが、2週間たち、3週間たっていくうちに、その売り上げにかげりが出てきたのだ。
従業員からもらった見込み客の家に行っても、以前のように当たりはよくない。
「電子レンジ?いいえ、そんなものいると言った覚えはありませんよ」
「○○さんの紹介だって?そんな人知らん」
特Aランクとして見込み客リストに載っているのお客さんの、何と6~7割の人がそういう応対をするのだ。
そのため、外での売り上げはめっきり減ってきた。

一方店の方も、お客さんは少なく、特に電子レンジのところに人がいるようにも見えなかった。
ところが、夜レジを締める段階になると、なぜか「今日も予算がいった」と言って喜んでいるではないか。
ぼくは、「これはおかしい」と思った。
だが、腰掛けの身分ゆえ、なかなかその事情を教えてくれない。
そこで、ごく親しい同僚を捕まえて、「何がどうなっとるんか」と聞いてみた。
同僚は小声で「テッポーよ」と言った。
「ああ、やっぱりそうか」とぼくは言った。

『テッポー』とは架空売上げのことで、『空鉄砲』からきていた。
つまり、売れてもないのに、さも売れたように伝票を操作していたのだ。
その手口は、伝票に見込み客等(架空の場合もある)の名前を書き、配達扱いにして伝票を打つ。
その際、代金は配達時にもらうことにしておくのだ。
これでいちおう売り上げは立つ。
しかし、架空であるから、いつまでたっても配達はしないし、また入金があるわけではない。

「誰がそんなことをさせよるんか?」
「店長に決まっとるやん」
「え?」
「あの人、かなり焦っとるみたいよ」
「どうして?」
「最初売り上げがよかったもんやけ、本社にかなりほめられて、いい思いをしたらしいんよ。売り上げが落ちたら格好がつかんやん」
「でも、テッポーがばれたら大変なことになるやろ?」
ぼくは、過去それをやって、転勤させられた人を何人も見てきている。

『テッポー』、つまり架空売り上げは、何もその店の専売特許ではない。
多かれ少なかれ、どこでもやっていることだ。
ただ、他の会社では、翌月確実に処理できる範囲でしかやらない。
ぼくも何度かテッポーを打ったことはある。
が、それは常識の範囲内に納めていた。
ところが店長は、そういう常識を度外視して、売り上げを上げられるだけ上げさせたのだ。
そのおかげで、一番嫌いであろうぼくに向かっても「しんた君よ、何かないんか?打てるんなら打てや」言ってくる始末だった。
ぼくは、そのたびに「ありません」と言って断っていた。
しかし、店にはぼくみたいな人間ばかりいるのではない。
店長の前でいい格好をしたい人間や、断ることが出来ない気の弱い人間もいる。
そういう人たちが、次から次へとテッポーを打っていった。