頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

『左遷』裏話(下)

ぼくが左遷に遭っている頃に、その噂は流れた。
ぼくはそのことを確認したかったのだが、外を回っていたために、なかなか内部の人間とコンタクトをとることが出来ず、その実情を知ることが出来ないでいた。

ある時のことだった。
ぼくが店の近くの喫茶店で昼食をとっていると、後ろの席から、「おう、しんた」という声が聞こえた。
誰だろうと思って振り返ってみると、そこには映像の課長がいた。
その課長は、その当時のぼくが心を許せる、唯一の上司だった。
「どうか、外販は大変か?」
「はい」
「まあ、今はきついかも知れんけど、もう少し我慢しろ。悪いようにはせんから」
後で知ったのだが、ぼくが店に戻れたのは、この課長の働きもあったということだった。

それはさておき、ぼくはその時、自分のことよりも、店長の噂の方に心が行っていた。
『そういえば、課長は、以前店長といっしょに仕事をしたことがあると言ってたなあ』
そこで、ぼくは課長にその噂の真相を聞くことにした。
「課長、ちょっと聞きたいことがあるんですが…」
「何か?」
「いや、店長のことなんですけど…」
そう言って、ぼくは課長に耳打ちした。

「えっ!?」
課長は、驚いた様子だった。
そして周りを見回しながら、「おい、それ誰から聞いたんか!?」と、声を潜めて言った。
「誰がって、噂ですよ。みんな知ってるらしいですよ」
「頼むけ、店長の前でそんなことを言わんでくれよ」
「気にしてるんですか?」
「おれは、以前そのことを店長の前でうっかり言ってしまい、片田舎に飛ばされた人間を何人も見てきた」
「そうなんですか。やっぱり気にしてるんですねえ」
「気になるよ。気にならんかったら、アデランスなんかつけんやろ?」
「ああ、そうですねえ」

ぼくは、ひとりほくそ笑んでいた。
そして、あることに思い至った。
『そうか。おれが店長から嫌われるのは、案外そういうことが絡んでるのかも知れん』
その頃、ぼくはまだ30歳前後だったが、すでにまとまった白髪群があったのだ。
それを見て、店長は生理的にぼくを嫌ったのかも知れない。
『若白髪はハゲない』と言われていることだし。

さて、この『左遷裏話』の初日に、辞めるための奥の手を持っていると書いたが、それはこのことである。
ぼくが辞めようと思えば、店長の前で、ひと言「ハゲ」と言ってやればよかったのだ。
彼は気持ちよく、ぼくを辞めさせてくれただろう。