頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

世間は狭い(上)

【その1】
ぼくが小学校に上がる前のことだが、母の働く会社にNさんという女性がいた。
その方も母と同じく、ご主人を会社で失っていた。
同じ境遇だったせいか、母と気が合い、家族ぐるみのつき合いをしていた。
そのNさんには二人の娘さんがいた。
母の話では、ぼくはよく彼女たちと遊んでいたらしいのだが、古い話なのでよくは憶えていない。
もちろん、名前もそうである。
ただ憶えていたのは、母の友だちにNさんという姓の人がいたということだけだった。

その後Nさんは会社を辞めたらしい。
再婚したのだ。
それに伴って姓も変わったわけだが、その後母からその人の話を聞くことはなくなった。

十数年後、ぼくは高校卒業と同時に長い浪人時代に陥り、そのまま成人した。
その浪人時代の最後の年に、ぼくは長崎屋でアルバイトをするのだが、その時知り合った人にMさんという方がいる。
ちゃらんぽらんな性格で、仕事もろくにしないような人だが、なぜかぼくとはウマが合った。
その後、お互い違う道を歩き出したが、今なおその親交は続いている。

さて、その長崎屋を辞めてから数年後、Mさんは○江さんという女性と結婚した。
○江さんはぼくよりも二つ年下だった。
もちろん、披露宴にぼくは呼ばれた。
Mさんの交流の幅が広かったせいか、披露宴は大いに盛り上がった。
最後の両親への花束贈呈の時に、○江さんのご両親が大泣きしていたのが印象的だった。

Mさんが結婚して以降、ぼくはたびたびMさんの新婚家庭を襲った。
ある時は酒を持って邪魔しに行ったり、ある時は人生相談に行ったり、またある時は商品を売り込みに行った。
飲みに行くこともちょくちょくあった。
そういうことがあって、ぼくは奥さんのほうとも仲良くなった。

そしてまた月日は流れ、ぼくは11年勤めた会社を辞め、新しい就職先に勤めるようになった。
新しい就職先は、奇しくも母が勤めていた会社が前身の会社だった。
つまり、ぼくは巡り巡って母と同じ仕事をしているわけだ。
Mさんから「おまえの就職祝いしてやるけ」と言われて、ある焼鳥屋に行った。
Mさんは奥さんと同伴で来ていた。
奥さんが「しんちゃん、どこに就職したと?」と聞いた。
「ああ、○○よ」
「ええっ、○○?うちの母もそこにいたんやけど」
「いつ頃?」
「まだ、あの会社の前身の頃の話やけどね」
「ふーん、うちのお袋もそこに勤めよったんよ」
「何店で?」
「××店」
「あっ?うちの母もそこよ」
「旧姓はSやったかねえ?」
「うん。でも、うちの母、再婚したけねえ。前はNと言ってたんよ」
「Nさん…。何か聞いたことあるねえ」
「そう?」
「うん。帰ってお袋に聞いておこう」
「案外知り合いかもね」