頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

純恋

高校1年の秋のことだった。
「しんた、Y子のことどう思う?」
友人のKちゃんが、突然ぼくにそう聞いてきた。
ぼくはドキッとした。
なぜなら、Y子はその当時ぼくが好きだった女性だったからだ。
ぼくはそのことを誰にも教えてなかったから、てっきりKちゃんにそれを見透かされたと思った。
だが、真相は違うところにあった。

「Y子…、Y子ねえ…。ま、かわいい方やない?」
ぼくは、自分の気持ちをKちゃんに悟られないように、平生を装って言った。
すると、Kちゃんは目を輝かせて言った。
「そうやろ。かわいいやろ!」
「うん、まあ…」
「実はおれ、Y子とつきあうことになったっちゃ」
「えっ…」
ぼくは絶句した。
しかし、Kちゃんにぼくの変化を気づかせてはならないと思い、慌てて次の言葉を探した。
そして、零点数秒の沈黙が、次の言葉を探し当てた。
「どちらからアプローチしたと?」
「おれから」
ぼくは、Y子からのアプローチでなかったことに、少し安心した。
「ふーん。何と言ったと?」
「つきあって」
「Y子はすぐに返事したんね?」
「いや、躊躇しとったみたいで、『少し考えさせて』と言ったんよ」
「で、いつ返事もらったんね?」
「昨日」
「そう…」
5分かそこらの会話だったが、この会話が今もなお、耳の奥にこびりついている。

その後の二人はどうなったのかというと、長続きしなかった。
一ヶ月くらいつきあった後に、別れたのだ。
別れはY子から切り出したらしい。
クラブ活動に専念したいから、というのがその理由だった。
そして、最後にY子は、こういうセリフを吐いたという。
「私、高校卒業するまで、誰ともつきあわない」

誰とも付き合わない。
誰とも付き合わない。
誰とも付き合わない…。
ぼくはこの言葉に縛られた。
そのため、Y子にその想いを伝えることが出来なかった。
もし、Kちゃんからそのことを聞かされてなかったら、ぼくは高校時代のいずれかの時期に、その想いをY子に伝えていただろう。
『Kちゃん、何でおれに言ったんか!?』
ぼくは運命を恨んだ。

その伝えられない想いが、ぼくを音楽に走らせた。
Y子がクラブ活動に専念するように、ぼくも音楽に専念しようと思ったのだ。
そして、いつかこちらを振り向かせてやる、と思ったわけだ。
だが、その思いは叶わなかった。
結局、8年間想い続けた末に、『月夜待』という歌を作り終わってしまう。