【1】
「ところで、何で『嫁ブー』なんね? 私そんなに太ってないよ」
「アホか、おまえは。『嫁ブー』ということにしとったら、日記読んでいる人は誰もが『ブー』と思うやろ?」
「うん」
「そしたら、『嫁ブーのいびきがうるさくて眠れなかった』と日記に書いたって、おまえは『ブー』やないんやけ、絶対にバレんやろうが」
「ああ、そうか」
【2】
先月の日記で、占いの人に見てもらったことを書いた。
その時、ぼくたち夫婦の相性はすこぶるいいということも書いた。
その後日談である。
「おまえ、占いの人に見てもらった時、おれたちの相性がいいとか言いよったのう」
「うん」
「どういうふうにいいんか?」
「あの時ねえ、『ご主人は、あなた以外の人だったら結婚してないでしょうね』と言われたんよ」
「どういう意味か?」
「しんちゃん、元々結婚に向いてないらしいんよ」
「そうか」
「家庭内で気を遣うのが苦手なんだって」
「じゃあ、何でおまえと結婚したんか?」
「わたしには気を遣わんらしいんよ」
「そうやのう。おまえには気を遣わんのう」
ある日、ぼくがこたつで寝ころんでいる時のことだった。
同じくこたつで寝ころんでいた嫁ブーに、「おい、そこの本を取ってくれ」と言った。
すると嫁ブーは、「そのくらい自分で取ればいいやろ」と言った。
「誰やけ頼むんか?おまえやけやろ。だから結婚したと占いの人も言いよったやないか」
「うっ…」
嫁ブーは、渋々起きあがって本を取った。
占いの人はいいことを言ってくれたものだ。
【3】
嫁ブーには変な癖がある。
何でも捨てる癖だ。
先日のことだった。
その二日前の新聞に、知り合いのことが載っていると聞き、家に帰って、さっそく新聞入れを探した。
ところが、どこを探しても見あたらない。
「おい、一昨日の新聞知らんか?」
「ああ、今日ゴミ出しやったけ捨てたよ」
「えっ、捨てた? でも、去年の新聞はあるやないか」
「上から順番に捨てようけ」
「おまえのう、古いのから先に捨てれ」
「だって、下の新聞出すの面倒やん」
「どこの世界に、新しい新聞から捨てる奴がおるか?」
【4】
初夏のことだったと思うが、シャボン玉石けんの本社に行き、固形シャンプーを3個買った。
使っているシャンプーがまだ残っていたので、買ったシャンプーは脱衣所の棚の上に置いていた。
さて、いよいよシャンプーがなくなったので、新しいシャンプーを使おうと、棚の上を見た。
ところが、ないのだ。
「おーい、この間買ったシャンプー知らんか?」
「そこにあるやろ?」
「ないけ、聞きよるんやないか」
「ない? そんなわけないやろ。他の棚に移したんやないんね?」
「おれは触った覚えはないぞ」
「私だって触ってないよ」
「ここを掃除するのは誰か?」
「それは私やけど…」
「じゃあ、触ったのはおまえしかおらんやないか」
「でも、触ってないもん」
と言って、嫁ブーは家捜しした。
だが、シャンプーは結局見つからなかった。
「おまえ、また捨てたやろ」
「捨ててないよう」
「でも、ないやないか」
「いや、そのうち出てくるっちゃ」
あれから3ヶ月ほど経つが、いまだシャンプーは出てこない。