昨日の夕方のことだった。
ぼくが昼食から戻ってくると、パートさんが、
「さっき大変だったんですよ」と言った。
「何かあったと?」
「Hさんが救急車で運ばれたんですよ」
「えっ?」
「倒れたらしいんですよ」
「何で倒れたん?」
「詳しいことは知らないんですけど…。ああ、Kさんがそばにいたから、詳しいことはKさんに聞いたらわかると思いますよ」
そこでぼくは、さっそくKさんの所に行き、事情を聞いた。
「Hさん、倒れたらしいですね」
「うん」
「どうしたんですか?」
「いや、作業中に、急に腕に痛みが走ったらしいんよ。そのあと気分が悪くなって座り込んどったらしいんやけど、そのまま意識がなくなって倒れたらしい」
「意識がないままですか?」
「いや、ぼくが行った時には、ちゃんと意識は回復しとったよ」
「で、救急車で運んだんですか?」
「うん。本人は『大げさに救急車なんか呼ばんでくれ』と言いよったけどね」
「でも、『救急車なんか呼ばんでくれ』とか言う元気があるなら、大したことないでしょうね。点滴でも受けて帰ってくるんじゃないですか?」
「うん、すぐ『ただいまー』とか言うて帰ってくると思うよ」
それから2時間ほどたって、Hさんの奥さんから店長宛に電話が入った。
ぼくは悪い予感がした。
こういう事があったあとに、家族から電話が入る時は、あまりいい知らせではないことが多いからだ。
『もしかしたら、Hさん、どこか悪かったんかもしれんなあ』
ぼくは詳しいことを聞こうと、事務所に向かった。
ところが、事務所の前に来た時、聞き慣れた笑い声が事務所の中から聞こえてきた。
ドアを開けてみると、そこにはHさんがいるではないか。
「Hさん、大丈夫やったんですか?」
「ああ、大丈夫。ご迷惑おかけしました」
話によると、病院で検査を受けたが、何の異常も見受けられなかったらしい。
強いて上げれば、中性脂肪が少し高かったそうだ。
その後、Hさんは「病院はタバコが吸えんけのう」などと言いながらタバコを一服し、早帰りすることになった。
Hさんが帰る時、Kさんに「早よ帰れるからと言って、今日はパチンコせんで、まっすぐ家に帰らなね」と言われていた。
Hさんは大のパチンコ好きで、ほとんど毎日パチンコに行っていて、帰るのはいつも11時近くになるらしい。
「倒れたのは、パチンコのやり過ぎのせいよ」とKさんは言っていた。