頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

20日の事件(2)

Hさんが休んでいたということで、イトキョンはそれとなく信じたようだった。
ぼくはイトキョンをかつぐことが出来たので満足していた。
ところが、それだけでは満足できない人がいた。
Kさんである。
ぼくが考えた入院話に、3千円徴収を乗せたのもKさんだった。
話はそれだけでとどまらなかった。

昼過ぎ、その日早番のイトキョンと交代で、中番のMさんが出社してきた。
Mさんはぼくの売場に来ることは、滅多にない。
ところがその日は違った。
血相を変えてぼくのところにきたのだ。
「どうしたんですか?」
「昨日は大変やったらしいね」
「ええ」
「でも、急なことやったねえ」
「そうですねえ」
「Hさんは、子供さんおったんかねえ?」
「いますよ」
「若いんかねえ?」
「いや、もう社会人ですよ」
「ああ、それならよかったねえ」
「?」
「で、今日は何時から?」
「えっ、何がですか?」
「お通夜よ」
「えーっ!?」
「さっきKさんが言ってたよ。今日Hさんのお通夜だって」

ぼくはそれを聞いて、思わず吹き出してしまった。
「えっ、何がおかしいと?」
「いや、Kさんがそう言ったんですか。ハハハ…」
「違うと? …あっ、もしかして騙したんやね」
そう言うとMさんは怒って売場に帰っていった。

しばらくして、薬局に行ってみると、Mさんと話していたイトキョンがぼくを見つけて言った。
「もう、しんちゃん嘘つきなんやけ」
「何が嘘つきなんね」
「Hさん、死んでないやん」
「あ? それ言うたのKさんやないね」
「でも、しんちゃんも入院したと言ったやないね」
「言うたよ。でも、おれは人を殺したりはせん」
「どうせ、入院も嘘なんやろ?」
「嘘やないよ」
「もう、信じんけね」
「普通、救急車で運ばれたりしたら、何でもないでも、一応検査入院するやろ」
「うん、するよ。…あ、そうか」
「ほら、嘘やないやろ」
「うん」

イトキョンが帰ったあと、ぼくはMさんに本当のことを話した。
「そうやろ。わたし昨日遅番やったけ、ちゃんとHさん見たもんね。Kさんから話聞いたときも、おかしいと思いよったんよ」
「もし死んどったら、店の中の空気が、それとなく違ってくるじゃないですか」
「そうよね。いつもと変わらんかったもんねえ。それで、イトキョンはまだ信じとると?」
「さすがに死んだというのは嘘とわかったみたいやけど、入院は信じとるみたいですよ」
「イトキョンらしいね」
「いつまで信じとるか楽しみですね」
「いや、きっともう忘れとるよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。あの人、いつも、その日の夕飯のことしか頭にないもんね」