頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

かわいそうなカード

夕方のことだった。
サービスカウンターのパートさんがぼくを呼んだ。
「どうしたと?」
「キャッシュカードを拾ったんだけど…」
「ふーん、じゃあ銀行に連絡したらいいやん」
「しんちゃんがして下さい」
「何でおれがせないけんとね。そのくらい自分でやって下さい。子供じゃあるまいし」
「でも、わたし慣れてないけ」
「慣れとかの問題やないやろ。ちゃんと拾った人が連絡せな」
「わたしが拾ったんじゃないもん。お客さんやもん」
という押し問答の末、結局ぼくが電話することになった。

落とし物はケースに入っており、その中にはキャッシュカードが2枚入っていた。
1枚は信用金庫のカードで、もう1枚は郵便局のカードだった。
ここでぼくは、どちらに電話しようかと悩んだ。
そこでパートさんに、「どちらに電話しようか?」と聞いた。
するとパートさんは、「郵便局はやめた方がいいよ」と言った。
「何で?」
「郵便局は忙しいけ、来てくれんっちゃ」
「でも、前は来てくれたよ」
「前はどうか知らんけど、今は来てくれんよ。人が足りんのやけ」
そういえば、そのパートさんのご主人は郵便局に勤めているので、郵便局の内情をよく知っている。
それならということで、信用金庫の方に電話することにした。

「北九州の○店です。実はおたくのキャッシュカードを拾ったんですが…」
「ああ、そうですか。お宅様には、うちのキャッシュサービスがあるんですかねえ?」
「ああ、拾得物入れでしょ。あいにくこちらには、F銀のしかないんですよ」
「そうですか。それでは、こちらからお客様に連絡して、そちらに取りに行ってもらいます」
「お願いします」

それから30分ほど経って、先ほどの信金の人から電話が入った。
「お客様、いないんですよねえ」
「そうですか」
「それでですねえ、お手数ですが、そちらから交番に持って行ってもらえませんか?」
「えっ、交番にですか?」
「はい」
「‥‥」

交番に行け、これまた面倒臭い申し出である。
交番に行くと手続きに時間がかかるから嫌なのだ。
そういうことなら、郵便局の方に電話すればよかった。
忙しくても、カードを引き取りには来てくれるだろう。

そこで、そのことを信金の人に言おうとした時だった。
先方が、「そこから一番近い交番はどこですか?」と聞いてきた。
「××交番ですけど」
「××交番ですね。わかりました。お客さんと連絡が取れたら、その交番に行ってもらうようにしますから」
「‥‥。そうですか。はい、わかりました」
ぼくは渋々受話器を置いた。
これで、郵便局に電話できなくなった。

ぼくはサービスカウンターに行き、カードを拾ったパートさんに、「交番に届けることになった」と言った。
「そう、やっぱりね」
「あんたが行ってきてね」
「えっ?」
「おれはちゃんと銀行に連絡したんやけ、今度はあんたの番やろ」
「何で私が行かないけんと?」
「あんたが拾ったんやろ?」
「私じゃないよう。お客さんが拾ったんよ」
「同じことやん。ちゃんと行ってきてよ」
「えー、行ってくれんと?」
「おれが行くとしたら、確実に9時近くになる。もしその間に落とし主が交番に行ったらどうするんね?」
「ああ、そうか」
「ちゃんと行ってきてよ」
「でも…」
「それが嫌なら、警察に電話して取りに来てもらい」
「あ、その手があったねえ」
「自分でかけてね」
「わかった…」
ということで、パートさんは警察に電話をかけた。

それから30分ほどして警察官がやってきた。
書類に必要事項を書き込んで、警察官は帰っていった。
『時間食ったけど、これでようやく一件落着した』
と思っていた時だった。
店内放送で「しんたさん、外線が入ってます」という連絡が入った。
出てみると、先ほどの警察官からだった。
「あのー」
「どうしたんですか?」
「先ほどのカードですけど…」
「あ、落とし主が現れたんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「どういうことですか?」
「交番に帰ってからカードを挟んでおいたノートを開いてみると、カードが入ってないんですよ」
「えっ? 落としたんですか」
「いや、落としたんじゃなくて…。忘れたんじゃないかと思いまして」
「ちょっと待ってください」

そう言って、ぼくは先ほど書類を書いたところに行ってみた。
しかし、カードはそこになかった。
『もしかして下に落ちてないか』と思い、その辺を探してみた。
すると出入口のドアのところに先ほどのカードの入ったケースが落ちているではないか。

「ああ、ありましたよ」
「やっぱり忘れてましたか?」
「いや」
「えっ?」
「落ちてました」
「どこにですか?」
「入口のところです」
「…そうですか。すぐに取りに行きます」

5分もかからないうちに警察官はやってきた。
これで、ようやく一件落着となった。
それにしても、持ち主に落とされ、警察官に落とされ、本当にかわいそうなカードである。