頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

「事件、事件」

昨日のことと関連した話である。
書類を書き上げたあと、警察官が「コピーを取りたい」と言ったので、ぼくは「コピー機は店内ですよ」と言って、案内した。
警察官にコピーを取っている間、暇になったぼくは、「何か面白いことはないかなあ?」と周りを見渡した。
するとそこに、格好の暇つぶしがいた。
イトキョンである。

『これはチャンスだ!』と思ったぼくは、血相を変えた顔を作ってイトキョンのもとへ走って行った。
「イトキョン、イトキョン
「あ、しんちゃん、血相変えてどうしたんね?」
ぼくはコピー機の方を指さして言った。
「ほら、あそこに警察がおるやろ」
「あ、ホント。何かあったと?」
「事件、事件」
「何、何?」
「さっきカードを使った詐欺事件があったんよね」
「えっ、どこであったと?」
「ここに決まっとるやろ」
「えー、全然知らんかった」
「そうやろうね。あんたが来る前のことやけ」
「そう」
「今、あの警察官ね、指紋を採りよるんよ」
「へえ、犯人はコピー機を使ったと?」
「うん」
「でね、さっきおれも指紋採られたっちゃ」
「ほんと!?」
「うん。サービスカウンターのTさんも、あとKさんも採られたみたいよ」
「でも、しんちゃんの指、汚れてないやん」
「今はね、汚れが付かんインクを使うんよ」
「へえ、進歩したんやね」

イトキョンは興味を持ったのか、警察官をずっと見ていた。
「ねえ、しんちゃん。何であの警察官一人しかおらんと?」
「鑑識の人やけよ」
「ああ、そうか。で、犯人はどうなったと?」
「逃げた」
「ふーん。そういえば、さっきカード詐欺って言ってたけど、そのカードはどうなったんね?」
「ああ、カードは犯人が逃げる時に落として行ったんよ。今そのカードはあの警察官が持っとるよ」

警察官が帰ったあとも、イトキョンはそのことが気になっていたようだ。
そんな時に「しんたさん、外線です」という連絡が入った。
ぼくはイトキョンに、「犯人が捕まったのかもしれん」と言って、受話器をとった。
さっきの警察官からだった。
持って帰ったはずのカードがない、という電話だった。

電話を切ると、ぼくはイトキョンの方を向いて、「大変なことになった」と言い、さきほどの書類を書いた部屋に走って行った。
カードは無事に見つかり、その警察官に「ありましたよ」と連絡した。
再びやってきた警察官にカードを渡し、一件落着したあと、ぼくはイトキョンのところに戻っていった。

ぼくの『大変なことになった』という言葉を気にしていたイトキョンは、ぼくが戻ってくると、目を輝かせて「何かあったんね?」と言った。
「いや、また新たな犯行があってね」
「えーっ」
「またカードが落ちてたらしいんよ」
「うわー、何かミステリー事件みたいやね」
というところで、閉店になった。

帰りしなに、ぼくはイトキョンに「もしかしたら、明日の新聞に載るかもしれんよ」と言った。
ところがイトキョンは、先ほどとは違うモードに入っていた。
ぼくの言うことが聞こえたのか聞こえなかったのか知らないが、無視してそそくさと帰っていったのだ。
きっとイトキョンの頭の中には、事件のことなんか入ってなかったに違いない。
夕飯のことで、頭の中はいっぱいなのだから。