頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

イトキョン、飛ばす

今日はパートさんが休みだったため、売場はぼく一人だった。
一人の時は、何かと制約が多いものだ。
例えば、トイレもゆっくり出来ない。
個室に入っている時に、何度も店内放送で呼ばれた経験を持つだけに、一人の日にはいつも焦ってやっている。
昼食もその一つである。
売場に誰もいなくなるので、食事中でも呼ばれたら店に出なければならない。
そのため、店内放送の入らないところには行けない。
ということは、食後の楽しみである、車の中での昼寝が出来ないということだ。
さらに、なるべく隣の売場のパートさんがいる時に行かないとならない。
他の売場の人は、なかなかフォローしてくれないのだ。

というこで、今日は隣の売場のパートさんが早出だったため、昼食もいつもより早くとった。
隣の売場のパートさんに「食事に行ってきます」と言って、ぼくは食堂に向かった。
食堂に入ると、そこにはイトキョンがいた。
「あ、しんちゃん。今から食事?」
「うん」
「今日は早いねえ」
「一人やけね」
「ああ、そうか」
「イトキョンは昼出?」
「うん。今日は1時から。まだ時間があるけ、今友だちにメールしよったんよ」
「そうね」

しばらくイトキョンとそんな話をしていると、シマちゃんというパートさんが入ってきた。
「あ、しんたさん。今日は早いね」
「今日は一人やけね」
「ああ、そうか。ところで、今朝は寒かったねえ」
「朝やろ。あまり寒かったんで目が覚めた」
「私は今朝4時頃目が覚めたんやけど、外は真っ白やったよ」
「雪で?」
「うん」
「じゃあ、今日は出てくるの大変やったやろ?」
「いや、それほどでもなかったよ。出る頃には大分溶けとったけね」

その時、店内放送がかかり、シマちゃんが呼ばれた。
シマちゃんが出たのを見計らって、イトキョンが言った。
「ねえ、しんちゃん。シマちゃんって、どこに住んどると?」
「山の上」
「ああ、そうやろね。うちの周りには雪なんか降ってなかったもん」
「そうやね。平地には降ってなかったね」
「で、シマちゃんは、何で来よると?」
「雪の日はスキーで来るに決まっとるやん」
「そんなはずないやろ」
さすがのイトキョンでも、このくらいの嘘はわかるようだ。
ところが、その次の会話で、ぼくは目が点になった。

「ね、本当は何で来よると?」
「本当はリフトよ」
「ああ、リフトかあ。いいなあ」
「‥‥」
「わたし広島の芸北(スキー場)に行ったことあるけど、あそこにもリフトあったよ。あたり一面真っ白でね」
「イトキョン
「え、何?」
「シマちゃん、何で来よるんかねえ」
「リフトよ。今、しんちゃんそう言ったやん」
「‥‥。あのねえ、常識で考えてわかるやろ」
「えっ、何が?」
「民家にリフトなんか引くかねえ?」
「ああ、そうか」
「何で、あんたは人の言うことを簡単に信じるんかねえ」
「だって、しんちゃんがリフトと言ったとたん、芸北の風景が目の前に広がったんやもん」
「それとシマちゃんの通勤手段は関係ないやん」
「そうよねえ。ハハハ」

『イトキョン、大丈夫か?』
ぼくは、ちょっと心配になった。