新しい部署に移ってから、いつも同じことを聞かれている。
「しんた君、趣味は何?」である。
その都度ぼくは、「えっ、趣味ですか…。最近何もやってないですねえ。毎日パソコンの前に座ってますから、強いて上げればパソコンということになりますかね」と答えている。
その部署の人は釣りを趣味にしている人が多いので、ぼくも釣りが趣味であって欲しかったのだろう。
が、釣りなんて、ぼくは長いことやっていない。
それも付き合いで行った程度だから、とても趣味なんて呼べない。
中学の時に一度釣り竿を買ったことがあるのだが、一度使った切りで、その後はどこにやったのかもわからなくなった。
一番最近はというと、昭和62年だったから、もう19年前になる。
その時は得意先主催の釣り大会に参加したのだ。
行きたくはなかったのだが、船に乗れると聞いたから、朝6時半の集合にも関わらず、ノコノコと出かけていったのだった。
集合したのは小倉港で、その沖合にある藍の島付近で船釣りをしたわけだ。
ぼくは船酔いしない。
中学生の時に、一度伯父に連れられて船釣りに行ったことがあるのだが、手漕ぎの舟に乗ったのはその時が初めてだった。
その日は小雨模様の悪天気で、沖は若干揺れていた。
最初のうちは何ともなかったのだが、だんだん気分が悪くなって来て、そのままダウンしていた。
が、その洗礼を受けたおかげだろうか。
その後、船酔いすることがなくなったのだ。
その自信が、釣り大会に参加する動機になったわけだが、その釣り大会、竿は自前で用意しなければならなかった。
だが、先に書いたようにぼくは釣り竿を持っていない。
そのため、糸釣りというのだろうか、指先に糸を結びつけて、釣りをやったのだった。
やる気なくただ糸を垂らしていただけだが、それでもよく釣れた。
釣ったのは、ほとんどがキスで、たまにタコなんかも釣れた。
釣り大会は午前中に終わり、その後は島に上がり、釣った魚で一杯やったのだった。
そのおいしかったこと。
しかし、それに味を占めて、釣りが好きになったのかというと、そうではない。
やはり趣味にはならなかった。
さて、明日からも同じように、「しんた君、趣味は何?」と聞かれるのだろうか?
もし聞かれたとしたら、もうパソコンが趣味だとは言いたくない。
「付き合いで船に乗るのが好きです」とでも答えておこうか。