【ピックがつかめない】
最近、会社から帰ったあとに、ギターの練習をしている。
いろいろ歌を録音しようと思うのだが、いっときギターを握っていなかったために、手がギターに馴染まないのだ。
指先の硬さなどから考えると、満足に弾けるようになるまでには、まだまだ時間を要しそうだ。
まあ、そういうことは時間の問題で何とかなるだろうが、ここで新たな問題が起きた。
それは、ピックがうまくつかめないということだ。
ギターを弾いている最中にピックがツルツル滑ってしまい、演奏が安定しないのだ。
そのためにリズムが狂ったりすることもあるし、ピックが指から離れて落ちてしまうこともある。
ギターを愛する者として、これは大きな問題である。
『なぜこんなことになるんだろう』と考えていた時、ふとあることを思い出した。
それは、本をめくる時に指をなめる人のことである。
指をなめるという行為、あれは指に適度な湿り気がなくなり、紙にうまく指が引っかからなくなったためにやるのである。
指が引っかからない、これはピックがうまくつかめないことと同じことではないか?
指をなめるのは、圧倒的に年寄りに多い。
つまり、老化が指先の湿り気を奪うのだ。
老化…。
ぼくの辞書にはない言葉である。
しかし、この事実は受けとめなくてはならない。
その上で、これからのことを考えなければならない。
さて、どうしようか?
ハンドクリームでも塗ろうか。
それとも、そのへんのじいさんのように指をなめようか。
いずれにしても、ぼくの使ったピックを欲しがることは、やめてください。
【老化】
本をめくる時に指をなめる行為だが、ぼくは昔からそういうのを見ると、「汚い癖だなあ。もっと本を大事にしろよ」と思っていた。
ところが、あれは癖でも何でもない。
先に書いたように、指に湿り気がないから、ページをめくれないのだ。
それを知ったのは、つい最近のことだった。
スーパーで買い物に行った時のこと。
レジをすませたあと、買った物をビニール袋に入れようとしたら、指が滑って開けることが出来ない。
嫁ブーに「おい、この袋、ツルツル滑って開かんぞ」と言うと、嫁ブーは「ああ、ちょっと貸して」と言って袋を取り上げると、いとも簡単に開いた。
「何かコツでもあるんか?」
「コツなんかないよ」
「じゃあ、何でおれがやると開かんのか?」
「それはね、老化」
「おれが老化したとでも言うんか?」
「年取るとね、肌が乾燥して湿り気がなくなって、こんなビニール袋とか開きにくくなるんよ」
「‥‥」
「よく、年取った人が本のページめくる時に、指をなめるやろ?」
「おう。汚い癖やのう」
「癖じゃないよ。ああしないとめくれんのよ。肌が乾燥しとるけね。老化のせいよ」
「‥‥」
ここで初めて、老化という言葉を身近に感じるようになったのだった。
老化、老化、老化…。
いやな響きである。