カメで思い出したことがある。
10年ほど前に、親戚の姉ちゃんが病院からもらった精神安定剤の薬害に遭ったことがある。
急に言動がおかしくなり、自殺をほのめかしたりしたのだ。
慌てた家の者が、「助けてくれ」と電話をかけてきた。
さっそく行ってみると、包丁を手に持ち、それを自分の首筋にあて、わけのわからないことを口走って騒いでいた。
こちらが何を言っても答えようとしない。
というより、ぼくたちが誰なのかがわかってないのだ。
とりあえず、相手の気を落ち着かせねばならない。
が、こういう時どうしていいかわからない。
挙げ句の果てにとった方法が、ビンタだった。
そして大声で怒鳴りつけ、相手が大人しくなったところで包丁を取り上げた。
すると、本人は安心したように眠ってしまった。
その後ぼくは、家にある包丁を全部隠し、ガスの元栓を閉めた。
もし目を覚まして、また騒ぎ出したら困るからだ。
そうしている時だった。
テーブルのほうから、「カリカリ、カリカリ」という音が聞こえてきたのだ。
電気を付けて見てみると、何とそこにカメがいた。
カメは2匹いて、どちらも体長は20㎝ほどだった。
その2匹が小さなプラスチックの水槽の中で、重なってもがいていたのだ。
「もしかしたら、今日のことは薬害というより、カメの祟りかもしれんぞ。明日このカメを池か川に放してこい」
そう言ってぼくは帰ったのだが、翌朝さっそく家の者はカメを近くの神社の池に放してきたそうだ。
その効き目なのかどうなのかは知らないが、それ以来、親戚の姉ちゃんは薬害に悩まされることがなくなった。