街に小さな風が吹いていた。
その時、何がどうなんだと、
酔っ払いの騒ぐ声が聞こえた。
酔っ払いは道行く人に向かって、
つばを飛ばし、身振り手振りで
支離滅裂な持論を展開していた。
予告なしの演説会は、
聞く人もいなければ、
振り向く人もいない。
それでも酔っ払いは、
声を詰まらせ、涙を流し、
懸命に演説をし続けた。
そして最後に酔っ払いは、
「天皇陛下万歳!」と叫んで、
演説のすべてを終わらせた。
一世一代の舞台を終えた酔っ払いは、
そのままその場に寝転がり、
ホッとした顔で眠ってしまった。
よほど緊張していたのか、
ビルの壁に映るその影は、
風よりもいくぶん速く揺れていた。