頑張る40代!

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

歌のおにいさん(3)

『赤色エレジー』は裏声で歌う歌なので、その練習さえしておけば、多少の歌唱力不足はカバーできる。
また、当時の大ヒット曲だったので、話題性は充分である。
ぼくは、歌う曲目を決めてから遠足前日までの毎日を、裏声の練習で過ごしたのだった。

さて、遠足当日。
ぼくは修学旅行時と同じく、後ろの方の席を陣取った。
前回の修学旅行では、前から順番に歌っていったから、今回は後ろから順番ということになると読んでいたのだ。
案の定であった。
その読みは見事に当たり、後ろから歌うことになった。

ぼくは3番目だった。
もちろんHより先である。
最初の二人が歌い終わり、バスガイドが、「次は誰が歌いますか?」と訊いた。
すかさずぼくは、大声で「はい!」と言って手を挙げた。
「おお、元気がいいですねえ。何を歌ってくれますか?」
「赤色エレジーを歌います」
「えーっ」と、ここでバスの中がどよめいた。
きっとみんなの心の中に、「まさかこの歌を歌う奴はいないだろう」というのがあったのだろう。
ということで、つかみはうまくいった。

ぼくは深呼吸をして、「♪愛は愛とて、何になるー♪」と始めた。
ちゃんと練習通りに裏声が出ている。
キーも外さずに歌えている。
ぼくは心の中で、「やったー!」と叫んでいた。

ところが、ここで予想外のことが起こった。
てっきりみんなは聞き惚れていると思っていたのだが、ぼくが声を張り上げるたびに笑いが漏れてくる。
「おかしいなあ」と思いながらも、全部歌い終わると、拍手の代わりに大爆笑が起きた。
そこで、横に座っていた友人に「何がおかしいんか?」と聞いてみた。
その友人は、「おまえの声がおかしいんよ」と言った。
「えっ!?」
「オカマみたいな声出しやがって」
「オカマ声やったか?」
「おう」
ぼくは慌てて『初恋』の君を見た。
彼女も、もちろん笑っていた。
その笑いは、嘲笑しているように見えた。
いや、嘲笑していたのだ。
その証拠に、その後彼女はぼくを見るたびに、下を向いて嘲るように笑っていたのだから。

結局、『赤色エレジー』で彼女の心をつかめなかった。
しかも、それを歌ったせいで、嘲笑の対象にまでなってしまったのだ。
ということで、高校に入るまで、ぼくは再び人前で歌を歌わない男に戻っていった。

とはいうものの、歌うのをやめたわけではなかった。
「高校で勝負だ」という思いがあって、押し入れスタジオでの練習はしていたのだ。
もちろんその頃には、『赤色エレジー』は歌ってなかった。
何度か友人たちから、「しんた、赤色エレジー歌ってくれ」と頼まれたが、「誰が歌うか!」と言って断っていた。
その頃、主に練習していたのは、ジュリーの歌であり、ラジオで覚えたフォークソングであった。
そして、それが高校時代の大ブレークにつながるのだった。